市場の展望と課題 【住宅】
“1本足経営”脱却へ、
「市場縮小にらみ統合や上場廃止」
大手住宅メーカーのこの1年は、今後の激動を予感させるニュースが相次いだ。三井ホームの株式上場の廃止、パナホーム、トヨタホーム、ミサワホームがまちづくり事業に関する合弁企業設立のニュースなど、いずれも今後の市場縮小へ対応した動きである。そして注文住宅は、4月から消費税が実質10%となり、「消費税10%時代」に突入した。 (ハウジングライター・藤原利彦)
消費増税/反動減も早期回復に期待/ポイント非課税期限後に課題
消費税が5%から8%に増税された時は、駆け込みもあったが反動減も大きかった。象徴的なのは積水ハウス。同社の戸建住宅(請負)の販売戸数は、駆け込み需要が発生した13年度7・9%増の1万5049戸。しかし、その後は反動減が続き18年度には1万戸を割り込んだ。請負型ビジネス1本足経営からストック型、開発型、海外の4本柱経営を推進、戸建住宅は高付加価値住宅を推進したこともあり、戸数は減少した。
大手住宅メーカーの戸建住宅の販売戸数は、5年前(消費税5%時代)に比較するとほとんどが減少しており、回復に至っていない。住宅着工統計を見ても14年度35万戸が18年度29万戸に縮小しているのだから、戸数を維持するにはシェアアップしかないが、それが難しい。
ミサワホームは、この数年、マーケットの縮小・競争に備え、事業の多角化を進めてきた。この結果、かつて売上高の7割近くを占めていた戸建て事業は18年度55・6%に下がり、今期は53・5%とさらに減少を見込んでいる。
今回の消費増税に対しては、国の手厚い反動減対策もあって、駆け込みも前回ほどなく、反動減は今のところ軽微、早い回復期待も出ている。住友林業の戸建注文住宅の受注は、1月12%増、2月10%増、3月43%増と駆け込みが多少出たが、4月2%減、5月15%減、6月8%減とマイナス幅は半減した。賃貸住宅については反動減対策がなかったことから1月22%増、2月176%増、3月162%増と駆け込みは大きく、その結果、4月58%減、5月50%減と大きく落ち込んだが、6月は14%減。「前年同月実績を下回っているがマイナス幅は縮小。商談件数も持ち直している。反動減からの受注回復の兆しがうかがえる」とする。
しかし、一方で慎重な見方もある。ローン減税の拡充や次世代住宅ポイント制度、贈与税の非課税枠の拡大はいずれも期限があり、期限が切れた時どうなるのか。オリンピック後の日本経済の失速懸念もある。消費税10%がじわじわと効いてくるのではないか、との声もある。
消費税が3%から5%に引き上げられた時、持ち家建設は急降下した。1996年度には持家建設は64万戸あったが、翌年は反動減で45万戸に急減し、8%増税時には35万戸に減少していた。消費増税と戸建住宅の関係から考えると、戸建て分野の不透明感は続く。市場縮小への対応を急ぐ必要があろう。
卒FIT電力/買取事業に相次ぎ参入
今年上期の住宅メーカーの新たな動きとしては、電力会社が再生可能エネルギーの余剰電力を一定価格で買い取ることを約束していた約束の期間10年が終了する卒FITオーナーが、今年11月から順次出てくる。これに対応して、住宅メーカーは卒FIT対策を相次ぎ発表した。「積水ハウスオーナー電気」、「スマートハイム電気」、「へーベル電気」などを発表して、11月より卒FITオーナーの余った電気を買い取ることにしている。
買い取り対象は自社が供給した住宅の卒FITオーナー。買取価格は電力会社の買取価格より若干高く設定している。これによって住宅メーカーとオーナーとの絆は強化される。住まいの電力レジリエンスは強化されることになる。
新築住宅から住まいのリフォーム、さらに50年~60年の住生活の中で発生するさまざまな住サービスの構築には、メーカーとOB顧客との絆、信頼関係が重要になる。住宅産業の新たな扉のカギになる可能性がある。
カギは強靱化“共感”世代
2019春の住宅新商品のキーワードはレジリエンス。ZEH事業にレジリエンス機能強化の補助金制度が新設されたのが契機となって、防災レジリエンスをテーマにした新商品が相次いだ。
トヨタホームが4月に発売した「災害にいちばん強い家を」は、V2Hシステムを導入、3電池に対応、飲料水を最大120リットル確保することで、災害後も住み続けられるようにしたことをアピールする。
被災後も居住 飲料水を確保
ミサワホームは、「備える・守る・支える」の3つの視点から、災害に強い家を提案。従来品に比べ、1・3倍の雨水処理能力がある「高排水設計のサイホン樋」、台風などの強風による被害を想定した「耐風仕様の屋根と軒樋」などを標準採用している。
リビング2階に 屋根はZEH対応
もう1つのトレンドはミレニアル世代をターゲットにした新商品。三井ホームの春の新商品はスカイラナイのある家「ルーカス」。
ターゲットとしたのはこれから住宅需要層の中心となるミレニアル世代(1980年~1990年生まれ)。モノよりコト(体験)、広告より口コミを信頼し、共感や評価を重視する意識が強い。
新商品「ルーカス」の開発ポイントは、(1)2階スカイルーム+スカイラナイのタテヨコ、内外に広がる暮らし(2)共働き世帯に向けたファミリーランドリー、クロークなど家事の時短を実現する「家事ラク」空間の提案(3)ZEHに対応する大きな片流れ屋根のファサードデザインなど。
2階リビングとしたのは居住スペースが限られた都市部で光あふれる暮らしの実現には2階リビング(スカイルーム)が合理的と考え、「部屋はコンパクトにして、バルコニーを広くした」。
アキュラホームが1月に発売した「おうちスタイルNEO」もミレニアル世代に向けた提案型商品。リゾートコースは家にいながらリゾート気分を味わうことができる暮らし提案。ペットコースはペットも飼い主も満足する暮らしの提案。両コースには電気式暖炉とペット用水栓を採用した。
同社が5月1日に発売した「ミライの家Rei」は、電気自動車、蓄電池、太陽光発電システムを導入し、全館冷暖房費ゼロ、光熱費ゼロ・自動車燃料費ゼロ実現をアピールする。
小屋・デッキ付け 内と外“つなぐ”
ユニーク商品としては「BESS」ブランドで展開するアールシーコアが4月に発売したワンダーデバイスギャング」。ログ小屋キット付き+デッキを標準採用した住宅である。
夫婦+子ども1人の生活を想定、延床面積は64平方メートル、いわゆる、これまでの住宅スペース+デッキ面積31・7平方メートル+ログ小屋の面積9・9平方メートル、外と内が自由につなげることで大きな暮らしを提案する。

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