2019年暑中特集 5/14

住宅・不動産業の未来 【流通】

不動産テック仲介の存在感あぶり出す

「一人当たり生産性向上で、中古住宅市場の拡大は続く」

 

 中古住宅市場の拡大が続いている。新規のマンション供給が縮小しているとはいえ、毎年新たな物件が登場し、それが積み上がって流通対象となり得る物件は増加していく。人口減少が本格化する中にあって消費者から選ばれる取引ができるかどうかで仲介会社の優勝劣敗が決まる。AI(人工知能)・IoTといったIT技術も進展し、仲介現場の働き方も大きく変わっていきそうだ。今ある職業の半分程度がAIに将来取って代わられるとするレポートが話題を呼んだ。事業環境の風景が様変わりすると見られる中で売買仲介ビジネスの将来像を探った。

 

情報処理能力で格差も

 

 中古マンションの成約件数は、東日本流通推進機構(東日本レインズ)によると、2018年も新築販売数を上回り3年連続だ。新築供給が少なくその新築価格が高すぎることに加えて、築浅で良質な物件が増えて中古市場に厚みが出てきたことと、低金利、住宅ローン減税といった各種政策が追い風となっている。

 

 不動産流通経営協会(FRK)の山代裕彦理事長は、「最近の消費者は新築志向だけでなく、自分が気に入った物件を追求する姿勢が強まっており、中古流通市場は拡大する」と見通す。ただ、単に物件を右から左に流す仲介スタイルで生き残るのは厳しいとも指摘する。空き家の増加や所有者不明土地の問題、少子高齢化による人口減少と地方の過疎化など地域の課題を把握し、その地域の発展に向けて展開するもう一段上のステージを求めている。

 

 そんな中でAI・IoTといった言葉が踊っている。不動産テックが仲介業者の脅威になり得るか。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)に加えて、将来の売買価格の見通しや、賃料予測、物件と購入希望者のマッチング機能などにとどまっているのが現状。次の一手が見えていないことを受けて当然ながら不動産仲介各社は、「我われの仕事がAIに取って代わられることはない。不動産テックで終焉するような仕事ではない」と口をそろえ、テックと人は共存できるとする。AIによりあらゆる面で簡便化が進むが、取り扱っている商材は不動産という実物資産であってバーチャルではないと強調する。

 

仲介現場では、物件購入検討者に居住後をイメージしやすいようVRやARを導入する例が増えている。しかし、デジタル化や情報処理のオートメーション化が進んでもその中心にあるのが現物であるたけに、「むしろ実物資産というリアル(現実)の中でヒト対ヒトの関係を浮き彫りとし、不動産テックの進展により改めて我われの存在がクローズアップされる」との反応は少なくない。大多数の関係者は将来消える職業と指摘されることに不快感をあらわにするとともに、AIなど不動産テックを駆使して営業マン一人当たりの生産性を引き上げながら消費者のニーズに応えて仲介手数料など収益の最大化につなげる。それによって、仲介事業者の存在価値が鮮明化していく時代を想定する。

 

 不動産テックの切り口は2つだ。一つは内政的な部分で業務の効率を上げ、合理化を進めることだ。市場調査のデータ収集やデータ解析の迅速化と深堀で事業戦略を組み立てられる。もう一つが対外的な部分として、消費者の利便性を高めるサービスの開発・提供につなげていくことだ。

  不動産テックは事業の本質ではないが、これらを活用した情報処理能力で業者間の格差が広がる可能性の指摘もある。

  三菱地所リアルエステートサービスの湯浅哲生社長は、「新たなサービスの提供など不動産テックは仲介ビジネス新境地への原動力になりえる。攻めのデジタル戦略を強靭骨太化の経営につなげる中期計画も策定中だ。不動産仲介が情報産業であるだけにデジタルマーケティング手法の確立が今後の死活を左右する機能になる」と予測する。

 

消費者に信頼される市場へ

 

「AIに振り回される必要なし」/業界の課題コツコツと対応も

 

 FRKの山代理事長は、「これまでの住宅購入は”一生に一度の買い物”だったが、最近はそう思われなくなっている雰囲気も出てきた。昔は新築の住宅を購入して長く住むという傾向が強かったが、共働き、パワーカップルのダブルインカムが増えた。住み替え需要が浸透していくと不動産流通業界にとってプラスに作用する」と期待する。

 競争はいろんな意味で激化するのは間違いない。

 前出の湯浅社長は、「不動産仲介事業者の存在理由がはっきりしていれば何をやるべきかが明確になる。優先順位を付けて研究・対応して分かりやすいビジネスモデルになっていく。能力を持つ事業者はその能力を発揮しやすい時代になる」としてAI進化論に伴う周囲の声に振り回される必要はないとする。

 

  また、賃貸借契約をオンラインで済ます国土交通省の社会実験が今年10月にスタートすることで、賃貸業界の周辺では将来の規制緩和を見据えて借り手の物件探しから賃貸申し込み、契約・引き渡しまで来店不要のワンストップの電子取引サービスの発表が相次いでいるが、実物資産の売買取引では一度も消費者と会わずに成約することの怖さを指摘する声は少なくない。

 住宅大手の地面師事件では取引先と相対しているのに騙されただけに人を介さない取引に慎重な姿勢は消費者のほうが意識を強くする。「一生に一度の大きな買い物と言われる住宅を取引先の顔も見ないで契約することはない」との反応だ。

 電子取引にとどまらず、業界で抱えている課題は少なくなく売買取引価格の情報オープン化や両手仲介、仲介手数料などがテーマとして浮上することが多い。売買価格の開示は個人情報上そぐわない、手数料自由化は値下げ合戦に振れかねないとの声も上がる。

 こうした状況で、向こう10年、20年、30年と中長期を展望することは難しいが課題を見て見ぬふりをすると将来に禍根を遺しかねないとのジレンマも抱える。


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