2019年暑中特集 7/14

住宅・不動産業の未来 【賃貸】

寄稿 東京大学空間情報科学研究センター客員研究員宗健博士(社会工学)

「人口減少、賃貸住宅マーケットの将来像を占う、大都市中心、活況の可能性、中核都市以上は現状維持」

 

 「供給過多と人口減少の本格化という状況を受けて賃貸住宅ビジネスが大きく変わる」。このような各方面からの見方を受けて賃貸住宅業界では、社会構造の変化とともに将来への備えを模索する。賃貸住宅業界が最も懸念するのが空室の拡大である。部屋の半分が埋まらない、家賃は下がるばかり。そうした懸念を払拭できない中で、東京大学空間情報科学研究センター客員研究員の宗健氏に近未来の賃貸住宅市場について寄稿してもらった。

 

“AI・IoT神話”の見過ごし/「市場規模拡大の力はない」

 

●10年後に市場は激変しているか

 

 AIの劇的進化や空き家の大幅な増加、人口減少等によって10年後の市場は劇的な変化を遂げているだろう、という主張もあるが、おそらく10年後の市場は今とそんなに違わないだろう、というのが私の見立てである。10年前の2010年ごろと今を比べて劇的な変化は起きていないから、というのがその根拠である。確かに2000年前後のインターネットの急速な普及と進歩は、社会を大きく変えたが、その後の変化は漸進的で、ひとびとはその変化を、変わったという実感なしに十分に吸収してきた。

 

 10年前の2009年には既に「空き家率上昇」「家賃下落」という警告を、いろんな人が発信していたが(期間指定でネット検索するとすぐに出てくる)、その後、空き家率はあまり上昇せず(08年=13・1%↓18年=13・6%)、家賃は首都圏や都市部を中心に上昇に転じている。

 

 「未来は大きく変わる」といったほうが注目を集めるのは当たり前だが、最も確率の高い近未来は「今とだいたい同じ」なのである。

 ●2030年の不動産市場の姿

 

 リーマン・ショックを誰も予想できなかったように、金融市場の大変動はいつ起きるのかわからない。今後10年間で大規模な金融市場の混乱が起きないという前提を置けば、不動産市場に最も影響を及ぼすのは、地域ごとの世帯数と所得水準である。なお、離れた場所どうしの世帯数も所得水準も、お互いの場所の不動産市場にはほとんど影響を及ぼさない。そういった意味で、全国の世帯総数や人口総数は不動産市場に対してさして意味を持たない。

 

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、30年に世帯数が増加するのは、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県・滋賀県・福岡県・沖縄県の8都県しかないが、5%以上の減少も青森県・秋田県・奈良県・和歌山県・山口県・徳島県・高知県・長崎県・宮崎県・鹿児島県の10県のみである。

 

 世帯数の減少幅は概ね人口減少の半分程度で、地方の人口減少地域の一部では不動産市場が消滅してしまう可能性もあるが、そうした地域の市場は、現状でも機能不全に陥っているケースも多い。既に起きた過去として、直近の10年間に大きく人口・世帯が減少した地域で市場が崩壊していないことからも、少なくとも地方中核都市レベル以上では、現状と同じような状況が続き、逆に大都市中心部では、インバウンドや人口集中の効果もあり、不動産市場が現状よりも活況を呈している可能性もある。

 

 地方では世帯数が減少して住宅需要が減退するのと並行して、老朽化した空き家が滅失されていくため需給は調整され、都心部では世帯数増加に対する供給余力が不足して市場が維持されている、という現在の状況が続く、というわけである。

 

 高齢化については、19年現在の日本の平均年齢は既に47歳で(2000年=41・4歳、10年=44・6歳だった)30年には49・2歳になると予測されている。65歳以上人口も20年の28・9%が30年には31・2%に上昇する。高齢化による移動率の低下もあって新築市場と仲介市場は緩やかに縮小していくと考えられるが、非婚化の影響などにより持家率が低下していることから、相対的な賃貸市場の拡大が続くことになる。

PR