2019年暑中特集 8/14

●不動産テックは世の中を変えるか

 

 AIやIoTといった不動産テックの最も大きな誤解は、不動産テックは市場の効率性を高めるかもしれないが、「市場規模を大きくする力はない」ということが見過ごされていることである。例えば、IT重説が導入されて業務は効率化されるかもしれないが、取引総数は増えないし、家賃や価格も上昇しない。

 

 AIによって精緻な家賃・価格査定が実現しても、おそらく取引総数も総額も変化しない。IoT機器の導入によって建築価格やリフォーム売り上げは多少増加するかもしれないが、住宅総数は変化しない。

 

 昨今話題のリモートワークや2拠点居住といった自由な働き方が、不動産市場を変えると言われることもあるが、冷静に考えてみると働く場所を選べる人たちの絶対数はそんなに多くはない。お店や工場に勤めている人々や運送業や建設業など、場所の制約から逃れられない仕事も多い。自由な働き方は、ごく一部の人たちのある種の特権に過ぎない。

  不動産テックに過剰な期待を持つのは禁物だが、それでもIoTサービス関連には、不動産ビジネスとは別のビジネスモデルが生まれる可能性はある。

 

 マンションの多くがオートロックになり、アパートでもエアコン付きが当たり前になったように、IT重説もAI査定もIoT機器もいずれ当たり前化していく。世の中が変わるというのは、いつの間にか新しいと思っていたことが当たり前になっていくプロセスのことであり、我々はこれまでもその変化に対応出来てきた。多くのひとは気づかないまま、小さな変化の積み重ねに自然と対応できていく。

悲観論で道は拓けない/現状維持の経営でも終焉に

 

●市場は、ますます2極化していく

 

 全体を俯瞰ふかんして眺めていると極端な変化は起きていないように見えても、局所的に見ていくと大きな変化は随所で起きていく。市区町村別にみていくと、人口減少と高齢化による経済の縮小と疲弊の影響はもちろんあり、日本全体の人口・世帯・経済が縮小していくなかでも活況を呈する場所もあれば、不動産市場が消滅した誰も住んでいない無居住地もどんどん拡大していく。

 

 都市ごとにみても、東京都千代田区・中央区・港区では30年までに10%以上の世帯数増加が見込まれている一方、人口が20%以上減少すると予測されているのも36市・259町村ある。

  大きく人口が減少する地域では、不動産だけでなくさまざまな市場が大きく縮小し場合によっては市場が消滅していくが、それにほとんどのひとは気づかない。20世紀後半に多くの中山間地域の集落が静かに消滅していった時のように。

 市場が二極化していけば、不動産業自体も変化を余儀なくされていく。都市部では再開発やインバウンド需要など市場の拡大余地はあり、IoT・ITや人材への投資がプレイヤーの差を広げていくだろう。IoT・AI・ITなどの先端技術では、投資規模が優劣を決める可能性がありプレイヤーの合従連衡が起き、寡占化が進む可能性もある。

 

 一方、地方では投資余力が限られるなか、高齢化によって自動運転車やIoTによる見守りなどのニーズは確実に拡大していく。それに対応できるプレイヤーは地元密着型かフランチャイズ型かも定かではないが、IoTやMaaSなど多様なプレイヤーとの関係構築が極めて重要になるだろう。

 来年も今年と同じだろうという現状維持の経営は、後継者を得られるだけの魅力はなく、明日は今日と少し違っていると考える経営にゆるやかに駆逐されていくだろう。

●未来は目標であり作り上げるもの

 

 「大空き家時代」「負動産」「20XX年問題」「マンション廃墟化」など、根拠が明確ではないものも含めてさまざまな未来予測が溢れているが、これらは何かを目指すための予測だとは思えない。悲観的な未来を前提とした経営は悲観的な結果をもたらすだろう。そもそも未来は予測するものではなく、さまざまな情報を自ら取捨選択し、あるべき未来を思い描き、積極果敢に目指すものである。そして未来は挑戦の結果として出現する。未来は目標であり作り上げるものなのだ。

 

【執筆者・プロフィル】

宗健(そう・たけし) 九州工業大学卒、リクルート入社。リクルートフォレントインシュア社長・リクルート住まい研究所長を経て、大東建託賃貸未来研究所長・東京大学空間情報科学研究センター客員研究員。博士(社会工学)筑波大学・ITストラテジスト。


PR