防災特集 5/5

「安全・安心」に、停電時の電力確保が鍵に、地域防災強化の役割担う

 

近い将来に首都直下地震や南海トラフ地震などの発生が予想されている。都市の大地震に対する備えはまだ十分とはいえないが、自治体の要請もあり、新しい街づくりや建て替え事業は今や地域防災の強化をけん引している側面もある。近年は集中豪雨による洪水や土砂災害、台風・高潮被害が頻発していることに加え、北海道胆振東部地震(昨年9月)を機に「電力の確保」が大きなテーマに浮上した。大手デベロッパーが取り組む防災対応を紹介する。

 

 

再開発・建て替え事業「逃げ込める街」実現へ

 

 東京都港区の「六本木ヒルズ」(2003年開業)を開発・運営する森ビルは今、万が一の災害時にはハード・ソフト両面から安全・安心な「逃げ込める街」を掲げている。港区や近隣の外国大使館、インターナショナルスクールなどと連携しながら年に数回、多言語による防災訓練などを実施。ハード面ではコジェネレーションシステム・地域冷暖房施設と非常用発電機を搭載、災害に強い中圧ガスを利用することで、災害時に系統電力がストップしても街全体で必要な電力を100%供給できる体制を整えている。

 

 有事の際(東京23区で震度5強以上の地震が発生した場合)、全社員約1400人が速やかに震災対策組織体制に移行し、迅速な復旧活動を行うことで、顧客の生活、事業の継続を支援できるよう取り組む防災組織体制も整えている。事業エリアの2・5キロ圏に複数の防災要員社宅(約100人)や管理社宅(7人)を設け、日頃から宿直制度(管理職1人)を設けて初動対応の強化を図っているという。

 

 8月に着工した「虎ノ門・麻布台プロジェクト」(組合施行の再開発事業、区域面積8・1ヘクタール、64階建てなど超高層3棟と低層棟、総延べ床面積約86万平方メートル)でも、「東日本大震災レベルの地震でも事業を継続できる耐震性能」「災害時でも100%の電力供給を実現」「帰宅困難者の受け入れ体制」を採用し、体制を整えている。

 周辺地域の防災拠点としては、(1)帰宅困難者の一時滞在施設の整備(約6000平方メートル、約3600人)(2)防災備蓄倉庫の整備(約150平方メートル、約3600人×3日分)(3)一時滞留スペースとして約1700平方メートル確保(4)防災井戸を整備し、災害時のトイレ洗浄水として活用ーーなどの対応を行っている。竣工は23年3月末の予定だ。

 

 

周辺エリアへ電力供給

 

 六本木ヒルズや「虎ノ門・麻布台」の電力供給が開発エリア内に限られるのに対し、普段から周辺のビルにも電力と熱供給を行っているのが3月に竣工した「日本橋室町三井タワー」(中央区、26階建て、延べ16万8000平方メートル)。地下部分はコジェネレーションシステムによる地域冷暖房施設と大型ガス発電機(3台)などのエネルギープラントを装備している。

 

 東日本大震災での計画停電、昨年9月の北海道胆振東部地震による大停電の教訓を生かし、系統電力だけに頼ることなく自ら電力をつくり供給していくことで、災害に強いビル、災害に強い都市を造ろうという考えから生まれたものだ。企業のBCP(事業継続計画)にしても、人々の暮らしにとっても電力が欠かせないのは北海道大停電の際、スマートフォンの充電に長蛇の列ができたことがよく教えてくれる。

 

 この日本橋では、三井不動産と東京ガスが共同設立した三井不動産TGスマートエナジーが「日本橋スマートエネルギー事業」として、延べ床面積約100万平方メートルのビルに電気と熱を安定的に供給する。この事業は発電施設のあるビル単体だけでなく、エネルギー供給を受ける周辺ビルの防災対応力をも向上させることになるわけだ。

 

 今後も「豊洲」(20年竣工)などでエネルギー供給事業を展開し、国内外に発信できる「スマートエネルギー事業」の先進モデルを提供していくという。

 

 

新宿南口、新ビルでは

 

 新宿駅南口に8月末に竣工した「リンクスクエア新宿」(渋谷区千駄ヶ谷5丁目、地上16階建て、延べ床面積4万3760平方メートル)。明治通り沿いの旧耐震基準ビル3棟を一体建て替えした再開発型複合ビル。事業主は三菱地所、日本製粉、ジャパンリアルエステイト投資法人。

 

 ここでは地元の要請もあって、就業者や来街者などの施設利用者だけでなく、地域住民にとっても安心・安全な防災機能を整備した。新宿駅と歩行者デッキでつながる3階オフィスロビーなど帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設(約345人)として開放するほか、防災備蓄倉庫、72時間の非常用電源となる自家発電設備、地元町会用の防災倉庫なども設置した。

 

 防災意識の高まりで、再開発やマンション開発事業では、地元の要請もあって、ビル単体だけでなく、周辺を含めた地域防災を強化するための施設づくりが定着してきたようだ。

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