住生活月間 特集 5/9

多世代居住・富裕層に照準

シニア住宅に知恵絞る余地

[寄稿 住宅ジャーナリスト 山本久美子]

 

 

住宅・不動産各社がシニアビジネスを主力事業の一つに据えようと力を入れている中で、老後の住まい方に合ったシニア住宅の供給が求められている。高齢社会の本格化により、社会インフラとしての重要度が増している。不動産大手は、さまざまな開発ノウハウを生かしながら展開する。住宅ジャーナリストの山本久美子氏に寄稿してもらった。

 

高齢化で単身・夫婦の急増

 

「令和元年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は長期人口減少期に入っているが、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は28・1%に達している。団塊世代が75歳以上になる2025年には、高齢化率が30・0%になると見られている。

 

 

 一方、高齢化が進むにつれて、単身または夫婦のみのシニア世帯の急増が見込まれている。住み慣れた住まいは、最寄り駅から距離があるなどの立地面や、部屋が余っていたり段差が多かったりなどのプラン面から、住み続けるには不便を感じることも多くなる。こうしたシニア世帯が、将来の介護を見通したうえで、夫婦のみや単身世帯に適した住まいに住み替えるという事例が増えている。もちろん、今の住宅をリフォームしたり、駅前のマンションなどに住み替えをしたりと、一般的な住宅に住み替える事例も多いが、介護が必要になったときに、共働きが当たり前になり子育てにも忙しい子どもたちには負担をかけたくない、と考えるシニア世帯も多い。

 

 そこで、介護を見据えたシニア専用の住み替え先を選ぶことになるが、自立した生活をしているか、常時介護が必要かによって、選択肢は分かれていく。自立しているシニア層に対しては、健康を維持してもらいながら将来的な介護にも備える住まいが増えている。

 

 具体的な住み替え先には、「サービス付き高齢者向け住宅」「シニア向け分譲マンション」「住宅型有料老人ホーム」などが挙げられる。政府は事業者に補助金を出して、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の後押しをしており、19年8月末時点でサ高住の登録件数は、7415件(24万7165戸)となっている。また、住宅型有料老人ホームは、住宅ではなく施設に該当するが、自治体が負担する介護報酬を抑制するために介護型有料老人ホームの開設が難しくなっていることもあって、自立している人や介護レベルの低い人を対象とする住宅型の開設が増加している。

 

 これらの最大の違いは、契約形態にある。賃貸借か所有権か利用権かによって、負担する費用が変わってくる。ただし、いずれの場合も規模の違いはあるが、見守りサービスのほかに、共用施設を用意して、健康を維持するためのアクティビティやサークル活動などを行えるようにしている場合が多い。

 

 大手デべ、手厚いサービス強み

 

さて、これらに取り組む事業者として、不動産会社などが注目されている。シニア向け分譲マンションは、マンションデベロッパーが主力事業者だが、物件数はきわめて少ない。

 

 代わって各社が力を入れ始めたのが、サ高住や有料老人ホーム(介護付き含む)だ。特に注目されるのが、多世代居住の「複合開発型」や富裕層向けの「レジデンス型」だ。

 

 複合開発型の事例として、東急不動産の「世田谷中町プロジェクト」を挙げよう。同一敷地内に一般の分譲マンション(252戸)とシニア住宅(一般住宅176戸・介護住宅75戸)を一体開発し、地域に開かれた認可保育園や介護事業所を併設する「多世代交流」の街づくりをしている。興味深いのは、分譲マンション購入後20年以内ならシニア住宅の介護住宅(サ高住)に住み替える際に、設定額で東急不動産が買い取ることで、敷地内の住み替えをしやすくしていることだ。

 

 NTT都市開発でも、分譲マンションとシニア住宅を一体開発する「つなぐTOWNプロジェクト」を展開しており、同様に、分譲マンション購入者にサ高住への優先入居権を付与することで、敷地内の住み替えや親世帯の呼び寄せによる近居などをしやすくしている。

 

 

 次に、高級レジデンス型の事例を見ていこう。

 

三井不動産レジデンシャルではシニアレジデンス事業部を新設し、「パークウェルステイト」ブランドを立ち上げた。その特徴は、高級分譲マンション同様の住宅の品質や充実した共用施設、ホテルや高級リゾートのノウハウを生かした上質なサービスなどだ。第1号物件のサ高住「パークウェルステイト浜田山」(一般住戸62戸・介護用住戸8戸)を見学した際、まずエントランスラウンジの豪華さに驚いた。共用設備として、多目的ホールやシアタールーム、麻雀卓付きゲームルームなどのほか、コンシェルジュ付きのヘアサロンまで用意されていた。

 

 

 賃料は約59平方メートルの部屋に一人入居の場合、前払方式なら75歳で約1億7000万円、月払方式なら約94万円で、ほかに約26万円の月額利用料が必要となる。

 

 

 また、三菱地所レジデンスでもヘルスケア開発第1号として、介護付有料老人ホーム「チャームプレミア永福」(48戸)を開業した。介護事業者チャーム・ケア・コーポレーションが賃借・運営し、同社が開発・保有・賃貸をするもの。棟内にはアート作品が数多く展示され、食堂兼機能訓練室や多目的室などの共用設備施設を備え、手厚い介護サービスを提供している。通常食とは別にプレミアムメニューをそろえるのも特徴だ。利用料は約20平方メートルの部屋に一人で入居した場合、80歳以上で前払金0円なら月額利用料が約59万円(食費含む)、同じ条件で約40平方メートルの部屋の場合は月額利用料が約110万円となる。

  

 また、三井不動産レジデンシャルは保有し続けるのに対し、三菱地所レジデンスは数年後に投資市場に売却する事業スキームを取るという違いがある。

 

 シニア住宅に積極的な大手デベロッパーは多い。それによってシニア住宅が多様になっていることは間違いないが、急増するシニア層の多様なニーズに応える住まいの供給には、まだ知恵を絞る余地がありそうだ。



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