住生活月間 特集 6/9

地域共生社会の役割大きく 高齢者住宅市場の現状と今後の動向

 

良質なストック形成が鍵

 [寄稿 長谷工総合研究所取締役主席研究員・吉村直子]

 

少子高齢社会の進展に住宅・不動産業界が身構えている。本格化した人口減少を受けて空き家の増加や住宅の売れ行きが鈍るといった論調が絶えない。ただ一方で、高齢者の増加に照準を絞ったビジネスモデルも相次いでおり、今後の商機は高齢者にあると意気込みを見せている事業者も少なくない。シニア住宅マーケットに詳しい長谷工総合研究所主席研究員の吉村直子氏に高齢者住宅市場の現状と今後の動向について寄稿してもらった。

 

 

 

 

 

サ高住は量から質への転換期

 

 

 

 

■高齢者住宅・施設の供給状況

 

 わが国には多種多様な高齢者住宅・施設があり、厚生労働省により医療・保健・福祉政策の中で制度化されたものと、国土交通省により住宅政策の中で制度化されたものに大別できる。

 

 これらの高齢者住宅・施設は、高齢者人口の急増という社会構造の変化を背景にその数を増やしてきた。介護保険制度が始まった2000年以降の主な高齢者住宅・施設の定員推移をみると、現在は特別養護老人ホーム(特養)が最も多いが、この約20年間で有料老人ホームが急増し、特養に迫る勢いとなっている。また、2011年に創設されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も短期間で急速に増加した。これらの主要高齢者住宅・施設の総定員は、17年時点で約208万人である。

 種別ごとの定員(18年)は、特養が61・0万人、介護老人保健施設が36・4万人、介護療養型医療施設が4・4万人で、あわせて101・8万人となっている。従来は、この介護保険3施設の定員割合が高かったが、介護保険制度が始まった2000年以降は有料老人ホームや認知症高齢者グループホーム、また11年以降はサ高住が急増し、この3種類の高齢者住宅・施設をあわせた定員は95・4万人を占めるまでになっている(グラフ=厚労省資料を一部改変して作成)

 ■転換点に立つ高齢者住宅施策

 

 日本は現在、世界で最も高齢化率の高い国であるが、高齢化が人口・世帯減の中で進行しているという点で、他国が経験したことのない難しい状況に直面するといっても過言ではない。

 

 14年6月には、高齢化と人口減少が進行しても維持できる医療・介護制度をめざした医療介護総合確保推進法が成立し、高齢者が安心して暮らせる多様な住まいを整備することが医療・介護サービスの改革を推進する上でも不可欠であるとの認識に立ったことが大きなトピックとなった。

 

 北欧などでは、「福祉は住宅に始まり、住宅に終わる」という発想が社会に根づいているが、こうした考え方の重要性が日本でもようやく認知されてきたということだろう。

 

 この「多様な住まい」の有望な候補として近年特に注目されてきたのがサ高住である。高齢者住まい法に基づき11年10月に創設されてからまだ10年も経過していないものの、建築主に対する建設・改修費補助、税制優遇など国による積極的な供給促進策もあり、短期間で急増した。登録数は19年9月末時点で約7400件、24・8万戸にのぼる(入居開始前の計画中・建設中の物件も含まれる)。

 

 当初に比べて増加ペースは大きく落ちているものの、営利法人をはじめ医療法人や社会福祉法人など多様な事業主体の参入により、登録住宅のストックは依然として増え続けている。

 

 その一方で、国が推進する「地域包括ケアシステム」の実現に向け、自立期でも要介護期でも安心して暮らせる住まいとしての役割を期待されながら、約25万戸の登録戸数の8割は25平方メートル未満の狭小住戸であり、自立高齢者や夫婦世帯などが暮らせる30平方メートル以上の広め住戸は全体の1割にも満たない。

 

 また、実際は生活利便性の低い郊外立地のものが少なくないことなど、高齢期の多様な居住ニーズに応え得る住宅整備がなされていないのではないかとの指摘も出てくるようになった。

 

 制度創設以降、短期間で急増したサ高住であるが、既に「量から質へ」の転換点を迎えていることは確かである。

 

 今後は住宅・サービス両面での総合的な対策を講じるとともに、まちづくりと連携した計画的な整備を誘導する必要がある。また、地域との共生や多世代共住といった視点も取り入れながら、良質なストックとして長く機能する住宅を供給していくことが望まれる。

 

 

ニーズ踏まえ供給進む/社会的コストとの見合いも…

 

■多様化する高齢者住宅の今後

 

 高齢者住宅・施設に関連する施策は、これまでその時々の時代背景をもとに大きく変化してきた。戦後復興期の保護・収容的な色合いの濃い施設整備に始まり、高齢化の進展とともに、所得レベルによる生活維持の困難さだけでなく、医療や介護の必要性によって支援が受けられるような施策へと転換してきた。

 

 また、1963年の老人福祉法の制定以降現在に至るまでの流れは、国から地方へ、公営から民営へ、措置から契約へ、施設から住まいへ、そして「エイジング・イン・プレイス」(地域居住)の概念を背景とした地域包括ケアシステムの構築と推進、深化へと変化してきた。

 

 今後も、地域ごとの実情や生活者のニーズ(心身状況、経済力、生活志向など)を踏まえながら、多様な高齢者向けの住まいが供給されると考えられるが、人口減少が進む中で高齢化が進展するわが国では、それぞれの地域で安心・安全・快適に暮らすためのコストをどう捉えるかという視点も重要になる。

 

 介護・医療など特定の資源のみならず、生活全般にかかる社会的コストを地域でどうまかなっていくのかという観点から居住環境整備を考えることが必要であり、高齢者住宅についても、こうした社会的コストを十分意識した上で、良質な居住の場とサービスを提供する高齢者向けの住まいとして計画し、整備していくことが求められる。

 

 限られた入居者の介護の場として完結するのではなく、地域の高齢者も含めての生活・交流拠点、世代を超えた住民の支え合いの拠点へと展開させることで、社会的コスト面で効率的であるだけでなく、地域包括ケアシステムの推進や地域共生社会の実現という点からも、高齢者住宅が果たす役割は一層大きくなるだろう。

 

 

【筆者プロフィル】

 

吉村直子(よしむら・なおこ)

 

 奈良女子大学大学院家政学研究科(住環境学専攻)修了。1992年長谷工コーポレーション入社。1994年長谷工総合研究所に出向、2019年より現職。

 

 大学時代より高齢者の居住環境に関する研究に取り組む。有料老人ホーム入居者の生活実態に注目し、ハード・ソフトに対する満足度が生活環境や事業主体に対する評価にどうつながっているかなどについて全国各地のホームで調査を実施。

 

 現在は、高齢者住宅事業に関わる制度・政策や市場環境の評価・分析、事業計画立案のための調査・研究、コンサルティングに携わる。


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