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住生活月間特集③/災害被災者支援推進で「変わる役割」

住生活月間特集③/災害被災者支援推進で「変わる役割」

  • 2025.10.27
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60周年祝賀会の会場風景

 日本不動産鑑定士協会連合会は10月16日、設立60周年記念祝賀会を東京都港区の八芳園で開いた。不動産鑑定士としての通常業務のほか、熊本地震をきっかけに被災者支援活動の一環として取り組みを始めた罹(り)災証明書の発行のため住家被害認定調査等の活動によって、一般消費者との関わる機会が増えたという。また、年間30万件を超える取引データの作成に伴うシステム開発を通じて、不動産取引の透明化を進めている。一方で、人材確保のためユーチューバーなどと連携することで、若年層への周知活動も積極的に行う同会は、1965年に日本不動産鑑定協会として発足した。これまでの歩みと将来ビジョンなどを吉村会長に聞いた。

不動産鑑定士協連合会が設立60周年/吉村真行会長に聞く
 ―60年の歴史を振り返って思うことは。

 時代ごとに求められる役割は変化する。当初は地価公示など公的な役割を、次に不動産の証券化が始まり、我々が制度として適正な価格という視点で市場をウォッチするようになった。今は、被災住宅の罹災証明書発行に必要な住家被害認定調査にも関わっている。「鑑定士は平時と同じように被災建物の評価もできる。誰かがやらなければいけないなら、我々がやらなければいけない」という思いで携わっている。
 他には手前味噌だが、東京士協会の会長時代に作ったゆるキャラだ。17年のゆるキャラグランプリでは企業団体部門で第6位の成果を残せた。我々の存在を一般の人はもちろん、特に若い人達に知ってもらうため、思いきって作った。
 ―不動産業界での鑑定士の存在とは。
 20年の土地基本方針に盛り込まれたが、不動産鑑定士は「不動産市場を支えるインフラ」だ。公的評価を担うことで、われわれが国の不動産市場の信頼性を下支えしている。
 民間では再開発などで事業者に助言する機会が増えた。建築費の高騰などもあって事業者はシビアに価格を見ている。数値やロジックで「なぜその価格なのか」を説明できることが、我々の職能の根幹だ。
 ―災害時の罹災証明業務を通じて感じることは。
 初動のマネジメントが極めて重要だ。当会では災害対策のコアメンバーは、発災から20分以内に状況確認して対応する体制を整えている。市町村長は1カ月以内を目安に罹災証明書を発行しなければならないため、初動対応がうまくできた自治体とそうでない自治体で大きな差が出る。公平かつスピーディーに判断できるよう、全国統一の研修とマニュアル整備を進めてきた。24年12月の内閣府との連携協定締結によって、より迅速に初動段階から関われるようになった。
 ―DX化と評価プロセスの透明化への取り組みは。
 DX化は、2年ほど前から本格的に取り組み始めた。会員が作成している取引事例データ(年間30万件)は、不動産取引価格情報提供制度、不動産価格指数などに活用されるが、この作業は会員の負担が大きい。現在、この作業の負担を軽減する事例作成支援システム「TraCass(トラキャス)」を開発中だ。
 透明化は統計分析システム「Polaris(ポラリス)」を基に、地価公示、用途地域、都市計画データ、取引情報、鑑定評価情報を統合したプラットフォームを構築し、不動産取引価格の公開とともに公共の利益につなげていく。AIを活用した鑑定評価書のチェックなども検討している。
 価格評価プロセスの透明化はこの20年で大きく進展した。DCF法の導入などで評価プロセスの説明性が向上。世界的には日本の不動産評価プロセスの透明性はまだ低いと言われるが、実際には相当厳格に評価されている。
 ―不動産価格の現状は。
 全体的には上昇傾向だが、地域差が大きい。丸の内や銀座などの都心部では利回りが2%を切るほど価格が上昇しているが、これがどこまで続くのか見極める必要がある。また、TSMC(熊本県)のような企業が進出する地域では、雇用環境や給与水準が変わり、不動産のポテンシャルも大きく変化する。インバウンド需要では、ニセコは外国人富裕層が雪質を評価したことで大きく変わった。コロナ後のホテル業界はV字回復どころか、以前の倍以上の価格設定が可能になるなど、予想を超えた変化が起きている。都心の分譲マンション価格も上昇し、港区の一部では平均坪2000万円超と、以前は考えられなかった価格になった。建築コストの急激な上昇もあり、不動産価格が欧米並みになってきているが、給料や物価がそれに見合っているかという課題がある。

公的評価の報酬基準全面改定/人材確保へ待遇改善急ぐ
 ―不動産鑑定士の待遇改善の取り組みは。

 地価公示や地価調査、相続税路線価評価などの公共業務の報酬は長年据え置かれていた。用地対策連絡協議会の報酬表は、20年3月に一部改正したが、今年10月6日には96年以来実質30年ぶりに報酬基準の全面改定が実現し、報酬は最大25%アップする。また、今後3年に1回の報酬見直しがされるであろう。公共分野の鑑定はこの報酬基準が報酬のベースとなる。そのため公共分野の仕事が多い地方の鑑定士にとって、今回の改定は特に意義が大きい。適正な報酬を確保することで、より良い仕事ができ、業界の好循環につなげる。
 ―若い世代で志望者が増えている要因は。
 不動産鑑定士でYouTuberの桃太郎さんなど、SNSを通じて若者が不動産鑑定士を身近に感じてくれるようになった。若い世代への広報活動も効果を上げている。小学生に出前授業で我々の職業を知ってもらい、高校生や大学生には具体的な仕事内容や報酬などを伝えることで、将来の選択肢として考えてもらえるようになった。
 明海大学にできた不動産鑑定士育成のカリキュラムには、予想以上の学生が集まっている。興味深いのは、不動産鑑定士の子どもが「二世鑑定士のたまご」として入ってくるケースが増えていることだ。また、社会貢献できる仕事として不動産鑑定士に関心を持つ人も増えている。我々の仕事はフェアな視点からバランスの取れた判断ができる点が魅力だ。専門家であり実務家でもある不動産の価値判断をするというユニークな国家資格であり、多くの可能性があると思う。
 ―今後の目標は。
 23年に「不動産鑑定業将来ビジョン」を作成し、今回の「不動産鑑定業将来ビジョン行動計画2025」では4つの柱を設定した。1つ目は「業務の進化、発展、多様化」で、取引事例の自動作成システムの実装や、コンサルティングなどの鑑定評価以外の業務、スキルの発揮を推進する。2つ目は「専門性の進化、社会的信頼の向上」で、研修や内部体制の強化を図っている。3つ目は「社会への発信強化、認知度向上」で、若手世代への情報発信や被災地支援、大学での寄附講座などだ。
 今回、新たに4つ目の柱「持続可能な業界構造への変革・転換」を加えた。高齢化が進む中での組織のあり方や次世代の担い手確保、地方の不動産鑑定士の人材確保などに取り組んでいる。これには収益が確保できる環境作りも含まれる。これらの取り組みを通じて、業界の持続的な発展を目指していく。
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