
創刊65周年記念特集/不動産鑑定士を取り巻く業務環境/寄稿 ときそう代表取締役 吉野荘平
-
2025.07.01
- ツイート
不動産鑑定士は、不動産の価値を専門的に評価する国家資格者です。不動産の売買や賃貸、相続、担保設定等、様々な場面でその価値を適正に判断する役割を担います。例えば、土地や建物の売買や賃貸、相続、税金の計算といった場面で「この不動産はいくらぐらいの価値があるのか?」という疑問が出てきます。その答えを専門的な知識と経験をもとに導き出すのが不動産鑑定士の役割です。
コンサルティング業務へ/価値評価の専門知識と分析力生かし
不動産は1つとして同じものがなく、立地や用途、周辺環境によって価値が大きく変わります。そのため、不動産の価値を正確に評価するには高度な専門知識と慎重な分析が必要です。不動産鑑定士は法律や経済、不動産市場の動向についての幅広い知識を駆使し、不動産の適正価格や適正賃料を算出します。この「適正価格」や「適正賃料」は、不動産取引の透明性を保つための重要な指標となります。
不動産鑑定士の業務は主に以下の3つに分類されます。
①鑑定評価業務=不動産の価格や賃料を評価する業務
「この土地はいくらで売れるか」「このビルはどれくらいの賃料が適正か」といったことを調べます。不動産取引では、この評価結果が売買価格や賃料設定の参考になります。また、金融機関が融資を行う際には、不動産鑑定士が評価した価格が担保価値として使用されることもあります。
②コンサルティング業務=土地利用計画や不動産投資戦略の助言
「この土地をどう活用すればいいか」「この建物への投資はリスクがないか」といった相談に乗ることもあります。不動産投資や開発プロジェクトでは、不動産鑑定士のアドバイスが重要な判断材料となることがあります。
③公共的業務=公共事業における土地収用や税務評価
道路や公園等、公共事業で土地を買う時や、税金を計算する時にも、不動産鑑定士が評価した価格が使われます。例えば、道路拡張工事で土地を収用する際には、その補償額を決めるために不動産鑑定士による評価が行われます。また、固定資産 税や相続税、税務関連でも不動産鑑定士の評価結果が活用されることがあります。
■なぜ不動産鑑定士はあまり知られていないのか
不動産鑑定士という仕事は非常に専門性が高く、社会的に重要な役割を担っていますが、その存在や仕事内容が広く知られていないという現状があります。ここで、その理由について考えてみたいと思います。
①資格取得が難しく、有資格者が少ない
不動産鑑定士は国家資格の中でも難関とされています。試験科目には経済学や法律、不動産に関する実務知識など多岐にわたる内容が含まれています。合格するためには幅広い知識と多くの勉強時間が必要です。そのため、この資格を持っている人自体が少なく、一般的な認知度も低いと言えます。(2024年1月1日時点で国土交通省に登録されている不動産鑑定士の登録者数は8695人)
②日常生活で接点が少ない
不動産鑑定士は、主に企業や行政機関と仕事をすることが多く、不動産仲介業者や建設会社と比べても、一般の方々や不動産業界以外の人々との接点が限られています。
例えば、不動産仲介業者は住宅購入時で直接消費者と関わる機会がありますが、不動産鑑定士の場合、そのような直接的な接点は少ないため、「どんな仕事なのか」「何をしている人なのか」が見えにくい職業と言えるでしょう。
③不動産業界内でも認知度が低い
意外かもしれませんが、不動産業界で働く方々でも、不動産鑑定士の具体的な役割について深く理解している人は多くはないようです。これは、不動産取引では仲介業者や弁護士が前面に立つことが多く、不動産鑑定士は裏方的な役割になることが多いためではないかと思われます。また、不動産取引全体から見ると、不動産鑑定士による専門的な評価が必要になるケースは限られているため、業界内でも馴染みが薄いことは否めません。
■不動産鑑定士の仕事をもっと知ってもらうためには
こうした現状を変え、不動産鑑定士という仕事をもっと多くの人に知っていただくためには、次のような取り組みが必要だと考えます。
①情報発信の強化
現在は、インターネットやSNSで、誰でも広く情報発信できる時代です。不動産鑑定士の日常業務や成功事例を積極的に発信していけば、多くの人々に興味を持っていただけるかもしれません。また、不動産関連のセミナーやイベントで講演する機会も増やしていくべきだとも考えます。特に若年層向けには、動画コンテンツなど、視覚的にも分かりやすい形で情報提供することが非常に効果的かつ重要と思われます。(すでにそういった活動を精力的に行い、動画配信サイトで多くのチャンネル登録者数を獲得している不動産鑑定士もいます。)
②若い世代へのアプローチ
大学や専門学校で、不動産関連分野を学んでいる学生さんたちに対して、不動産鑑定士という職業について紹介する場を作ることも、将来の人材育成につながるのではないかと考えます。この資格に挑戦したいと思う若者が増えれば、認知度の高まりも期待できると思われます。また、高校生向けにも「職業体験」の形で不動産鑑定士という仕事について触れる機会を提供できれば、新しい世代への普及にもつながるのではないでしょうか。
③不動産業界内で連携する
不動産仲介業者や建設会社、他分野との連携を深めることで、不動産鑑定士の役割をより明確に理解してもらえるようになるのではないかと思います。例えば、一緒にセミナーを開催したり、共同プロジェクトを進めたりすることで、お互いの存在感を高めることも可能となるでしょう。また、業界内での成功事例や実績を共有することで、お互いへの理解や信頼感も深まるのではないでしょうか。
④一般消費者向けサービスの展開
これまで企業向け・行政向け中心だった不動産鑑定サービスですが、一般消費者向けにも門戸を広げることで、認知度向上につなげることができるのではないかと思います。例えば、「マイホーム購入時に適正価格かどうかチェックしてほしい」といったニーズにも応えられる仕組みづくりは、多くの人々から注目される可能性を秘めています。
■まとめ
いかがでしたでしょうか。不動産鑑定士は、不動産取引や社会全体の公正性・透明性を支える重要な職業です。しかし、その専門性ゆえに一般にはあまり知られておらず、不動産業界内でさえも馴染みが薄いという現状があります。これからは情報発信や教育活動を通じて、多くの方々にその役割と魅力を伝えていかなければならないと感じています。不動産業界全体としても、不動産鑑定士との協力関係を深めることで、より健全で活発な市場形成が期待できるのではないかと考えております。
最後になりますが、創刊65周年という節目に、このようなテーマで寄稿できたことを大変光栄に思います。不動産鑑定士という職業への理解を少しでも深めていただくきっかけとなれば嬉しいです。また、今後も不動産鑑定士としての業務を通じて、少しでも社会に貢献できれば幸いです。
コンサルティング業務へ/価値評価の専門知識と分析力生かし
不動産は1つとして同じものがなく、立地や用途、周辺環境によって価値が大きく変わります。そのため、不動産の価値を正確に評価するには高度な専門知識と慎重な分析が必要です。不動産鑑定士は法律や経済、不動産市場の動向についての幅広い知識を駆使し、不動産の適正価格や適正賃料を算出します。この「適正価格」や「適正賃料」は、不動産取引の透明性を保つための重要な指標となります。
不動産鑑定士の業務は主に以下の3つに分類されます。
①鑑定評価業務=不動産の価格や賃料を評価する業務
「この土地はいくらで売れるか」「このビルはどれくらいの賃料が適正か」といったことを調べます。不動産取引では、この評価結果が売買価格や賃料設定の参考になります。また、金融機関が融資を行う際には、不動産鑑定士が評価した価格が担保価値として使用されることもあります。
②コンサルティング業務=土地利用計画や不動産投資戦略の助言
「この土地をどう活用すればいいか」「この建物への投資はリスクがないか」といった相談に乗ることもあります。不動産投資や開発プロジェクトでは、不動産鑑定士のアドバイスが重要な判断材料となることがあります。
③公共的業務=公共事業における土地収用や税務評価
道路や公園等、公共事業で土地を買う時や、税金を計算する時にも、不動産鑑定士が評価した価格が使われます。例えば、道路拡張工事で土地を収用する際には、その補償額を決めるために不動産鑑定士による評価が行われます。また、固定資産 税や相続税、税務関連でも不動産鑑定士の評価結果が活用されることがあります。
■なぜ不動産鑑定士はあまり知られていないのか
不動産鑑定士という仕事は非常に専門性が高く、社会的に重要な役割を担っていますが、その存在や仕事内容が広く知られていないという現状があります。ここで、その理由について考えてみたいと思います。
①資格取得が難しく、有資格者が少ない
不動産鑑定士は国家資格の中でも難関とされています。試験科目には経済学や法律、不動産に関する実務知識など多岐にわたる内容が含まれています。合格するためには幅広い知識と多くの勉強時間が必要です。そのため、この資格を持っている人自体が少なく、一般的な認知度も低いと言えます。(2024年1月1日時点で国土交通省に登録されている不動産鑑定士の登録者数は8695人)
②日常生活で接点が少ない
不動産鑑定士は、主に企業や行政機関と仕事をすることが多く、不動産仲介業者や建設会社と比べても、一般の方々や不動産業界以外の人々との接点が限られています。
例えば、不動産仲介業者は住宅購入時で直接消費者と関わる機会がありますが、不動産鑑定士の場合、そのような直接的な接点は少ないため、「どんな仕事なのか」「何をしている人なのか」が見えにくい職業と言えるでしょう。
③不動産業界内でも認知度が低い
意外かもしれませんが、不動産業界で働く方々でも、不動産鑑定士の具体的な役割について深く理解している人は多くはないようです。これは、不動産取引では仲介業者や弁護士が前面に立つことが多く、不動産鑑定士は裏方的な役割になることが多いためではないかと思われます。また、不動産取引全体から見ると、不動産鑑定士による専門的な評価が必要になるケースは限られているため、業界内でも馴染みが薄いことは否めません。
■不動産鑑定士の仕事をもっと知ってもらうためには
こうした現状を変え、不動産鑑定士という仕事をもっと多くの人に知っていただくためには、次のような取り組みが必要だと考えます。
①情報発信の強化
現在は、インターネットやSNSで、誰でも広く情報発信できる時代です。不動産鑑定士の日常業務や成功事例を積極的に発信していけば、多くの人々に興味を持っていただけるかもしれません。また、不動産関連のセミナーやイベントで講演する機会も増やしていくべきだとも考えます。特に若年層向けには、動画コンテンツなど、視覚的にも分かりやすい形で情報提供することが非常に効果的かつ重要と思われます。(すでにそういった活動を精力的に行い、動画配信サイトで多くのチャンネル登録者数を獲得している不動産鑑定士もいます。)
②若い世代へのアプローチ
大学や専門学校で、不動産関連分野を学んでいる学生さんたちに対して、不動産鑑定士という職業について紹介する場を作ることも、将来の人材育成につながるのではないかと考えます。この資格に挑戦したいと思う若者が増えれば、認知度の高まりも期待できると思われます。また、高校生向けにも「職業体験」の形で不動産鑑定士という仕事について触れる機会を提供できれば、新しい世代への普及にもつながるのではないでしょうか。
③不動産業界内で連携する
不動産仲介業者や建設会社、他分野との連携を深めることで、不動産鑑定士の役割をより明確に理解してもらえるようになるのではないかと思います。例えば、一緒にセミナーを開催したり、共同プロジェクトを進めたりすることで、お互いの存在感を高めることも可能となるでしょう。また、業界内での成功事例や実績を共有することで、お互いへの理解や信頼感も深まるのではないでしょうか。
④一般消費者向けサービスの展開
これまで企業向け・行政向け中心だった不動産鑑定サービスですが、一般消費者向けにも門戸を広げることで、認知度向上につなげることができるのではないかと思います。例えば、「マイホーム購入時に適正価格かどうかチェックしてほしい」といったニーズにも応えられる仕組みづくりは、多くの人々から注目される可能性を秘めています。
■まとめ
いかがでしたでしょうか。不動産鑑定士は、不動産取引や社会全体の公正性・透明性を支える重要な職業です。しかし、その専門性ゆえに一般にはあまり知られておらず、不動産業界内でさえも馴染みが薄いという現状があります。これからは情報発信や教育活動を通じて、多くの方々にその役割と魅力を伝えていかなければならないと感じています。不動産業界全体としても、不動産鑑定士との協力関係を深めることで、より健全で活発な市場形成が期待できるのではないかと考えております。
最後になりますが、創刊65周年という節目に、このようなテーマで寄稿できたことを大変光栄に思います。不動産鑑定士という職業への理解を少しでも深めていただくきっかけとなれば嬉しいです。また、今後も不動産鑑定士としての業務を通じて、少しでも社会に貢献できれば幸いです。