密集市街地を再生/住宅金融支援機構、信託融資スキーム活用/建て替えから管理まで解決/住宅金融支援機構事業融資部 竹本清志部長に聞く
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2025.06.25
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東京一極集中が進むなかでも、都内にはまだ都市基盤の面で多くの課題を抱えている。例えば、消防車や救急車など緊急車両が出動できない「密集地域」も改善されてきたとは言え、多く残されている。安心・安全なまちづくりを資金面から支援していくのが住宅金融支援機構。現在、「信託融資スキーム」「まちづくり融資(長期建設資金)」「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」の3つの融資方法による賃貸住宅や共同建て替えに取り組んでいる。同機構事業融資部の竹本清志部長に、その考え方や取り組み状況などを聞いた。
--信託融資スキームの基本的な枠組みは。
「住宅金融支援機構が密集市街地の再生に対して取り組んでいる『信託融資スキーム』の基本的なスキームは、不動産管理信託を活用した信託内借り入れになる。地権者が信託会社に土地を信託し、信託会社は機構から融資を受けて賃貸住宅を建設する。地権者は受益者の立場で収益を得る。民間でも一部導入例はあるが、ほとんどは地権者が1人か親族間の事業に限られている。機構では、複数地権者にも対応できるようにすることで、共同建て替え事業につなげることを目的としている」
--共同建て替えに対応するための工夫は。
「受益権が地権者間の準共有となるため信託契約上、誰が信託会社に指図権の行使を行えるかを事前に定める。信託終了後の建物については、管理組合の設立支援や区分所有建物への変更を信託会社の努力義務としている」
--このスキームを導入した背景にあるのは。
「一昨年、関東大震災から100年を迎え、密集市街地の不燃化を目指す企業からの相談がきっかけ。『密集市街地の不燃化や良質な賃貸住宅の供給に信託スキームの活用をしたい』『民間金融機関では対応が難しい』という、社会的課題の解決を金融の力で支援するため、スキームづくりに着手した経緯がある」
「密集市街地は立地のポテンシャルが高いものの、狭い道路の解消が進まないエリアもあるのが現状。建て替えが実現しない背景には『地権者の信用力では建て替え資金を借りることができない』ことや『借金を負うこと自体への抵抗感』といった声も聞く」
「一方、借り入れ人を信託会社とすることで『地権者の信用力に依存しない融資』が可能になり、問題解決につながると考えている」
--信託ならではのメリットはありますか。
「地権者の信用力に依存しない融資をできるのが特徴。信託には高齢者の財産管理や遺産分割を避けた財産承継、二次相続先の指定など、さまざまな選択をすることが出来る。たとえば事情を抱える子の将来の生活を守る、資産が姻族に分散するのを防ぐといった要望の実現も可能になる」
--逆にデメリットは。
「信用力に依存しない代わりに、物件の収益性や担保力が必要になる。ポテンシャルのある立地でないと活用が難しいというのが課題だ」
--権利調整の課題解決が先ということに。
「信託会社が属するグループの不動産会社によって、煩雑な権利調整の対応を行う。調整には時間とコストがかかるが、建て替え後の収益で一定程度のコスト吸収が可能と考えている」
--民間金融機関との違いは。
「機構では民間の金融機関では対応が難しい分野に対して融資を行っている。具体的には、子育て世帯向けや一定の省エネルギー性能を有する賃貸住宅を建設するための『子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資』と、災害に強い賃貸住宅に建て替えるための『まちづくり融資(長期建設資金)』の2種類で、長期固定金利で返済額の変動を抑えられるのが特徴。また、法人や高齢者も一定の条件で申し込みを行うことが出来る。実際の融資金利が、申し込み受け付け月の約2カ月後(翌々月の月末)に決定するのも民間金融機関との違いとなっている」
--今後については。
「4月から新築建物の省エネ基準適合が義務化され、国は『子育てグリーン住宅支援事業』を6月30日から開始する。機構の賃貸住宅建設融資では、現在、『機構の定めるZEH基準に適合する住宅』『長期優良住宅』『子育て配慮賃貸住宅』を対象に、年0・2%(当初15年間)の金利引き下げを実施している。10月からは『長期優良住宅』に対する金利引き下げ幅を年0・3%に拡大させるとともに『まちづくり融資(長期建設資金)』でも『子育て配慮賃貸住宅』に対する金利引き下げ制度を利用できるように拡充していく」
融資方法の説明
■信託融資スキーム
密集市街地の再生と建て替え促進を支援する信託融資スキーム。同機構は、建て替えが困難な地域でも再整備を可能にする仕組みとして、信託会社とともに提供している。
このスキームでは、複数の地権者が信託契約を通じてそれぞれの不動産を信託会社に信託譲渡し、土地の一体的な利用を可能とする。信託会社が融資の申込人となり、建物を建設・運営し、収益を地権者に分配する。地権者は希望すれば建設した賃貸住宅に入居できる。接道の問題や資金調達の課題を解消し、個々の信用力に依存しない建て替えが可能。
なお、このスキームは、「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」または「まちづくり融資(長期建設資金)」のどちらを利用する場合でも利用することができる。
■賃貸住宅建設融資
省エネルギー性能や耐火性能など一定の条件を満たす賃貸住宅の建設を対象とした長期固定金利型の賃貸住宅ローン。「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」と「まちづくり融資(長期建設資金)」の2種類がある。主な特徴は次のとおり。
・長期固定金利で金利上昇による返済額増加を回避(15年固定金利・35年固定金利の2タイプから選択可能)
・法人も申し込み可能
・65歳以上も事業後継者と連名で申し込み可能
・実際の融資金利は申込受付月の2カ月後の月末に決定
・資金は、着工時や屋根工事完了時、竣工時に中間金として段階的に受け取ることが可能
ローンを利用するには担保や保証人等の利用条件や注意事項がある。
■子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資
世帯向けに十分な住宅の広さや一定の省エネルギー性能を有する賃貸住宅を建設するための賃貸住宅ローン。敷地面積が165m2以上、各住戸の専有面積が40m2以上、賃貸住宅部分の延べ面積が200m2以上などの基準を満たす共同建て等の賃貸住宅が融資対象となる。また、「一次エネルギー消費量等級5以上の住宅」または「トップランナー基準に適合する住宅」とする必要がある。
■まちづくり融資(長期建設資金)
災害に強い住宅市街地整備に貢献できる賃貸住宅に建て替えるための賃貸住宅ローン。敷地面積が原則100m2以上、各住戸の専有面積が原則30~280m2などの賃貸住宅であること(建築物要件)のほか、一定の用途地域内(住居系地域など)にあること及および整備改善を図る必要がある区域内(危険密集市街地、防火地域など)にあること(地域要件)、機構が指定する事業要件に該当する必要があること(事業要件)、という3つの要件を満たす必要がある。
なお、4月から「地域要件」を拡大し、地方公共団体が定める密集市街地も対象となった。
--信託融資スキームの基本的な枠組みは。
「住宅金融支援機構が密集市街地の再生に対して取り組んでいる『信託融資スキーム』の基本的なスキームは、不動産管理信託を活用した信託内借り入れになる。地権者が信託会社に土地を信託し、信託会社は機構から融資を受けて賃貸住宅を建設する。地権者は受益者の立場で収益を得る。民間でも一部導入例はあるが、ほとんどは地権者が1人か親族間の事業に限られている。機構では、複数地権者にも対応できるようにすることで、共同建て替え事業につなげることを目的としている」
--共同建て替えに対応するための工夫は。
「受益権が地権者間の準共有となるため信託契約上、誰が信託会社に指図権の行使を行えるかを事前に定める。信託終了後の建物については、管理組合の設立支援や区分所有建物への変更を信託会社の努力義務としている」
--このスキームを導入した背景にあるのは。
「一昨年、関東大震災から100年を迎え、密集市街地の不燃化を目指す企業からの相談がきっかけ。『密集市街地の不燃化や良質な賃貸住宅の供給に信託スキームの活用をしたい』『民間金融機関では対応が難しい』という、社会的課題の解決を金融の力で支援するため、スキームづくりに着手した経緯がある」
「密集市街地は立地のポテンシャルが高いものの、狭い道路の解消が進まないエリアもあるのが現状。建て替えが実現しない背景には『地権者の信用力では建て替え資金を借りることができない』ことや『借金を負うこと自体への抵抗感』といった声も聞く」
「一方、借り入れ人を信託会社とすることで『地権者の信用力に依存しない融資』が可能になり、問題解決につながると考えている」
--信託ならではのメリットはありますか。
「地権者の信用力に依存しない融資をできるのが特徴。信託には高齢者の財産管理や遺産分割を避けた財産承継、二次相続先の指定など、さまざまな選択をすることが出来る。たとえば事情を抱える子の将来の生活を守る、資産が姻族に分散するのを防ぐといった要望の実現も可能になる」
--逆にデメリットは。
「信用力に依存しない代わりに、物件の収益性や担保力が必要になる。ポテンシャルのある立地でないと活用が難しいというのが課題だ」
--権利調整の課題解決が先ということに。
「信託会社が属するグループの不動産会社によって、煩雑な権利調整の対応を行う。調整には時間とコストがかかるが、建て替え後の収益で一定程度のコスト吸収が可能と考えている」
--民間金融機関との違いは。
「機構では民間の金融機関では対応が難しい分野に対して融資を行っている。具体的には、子育て世帯向けや一定の省エネルギー性能を有する賃貸住宅を建設するための『子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資』と、災害に強い賃貸住宅に建て替えるための『まちづくり融資(長期建設資金)』の2種類で、長期固定金利で返済額の変動を抑えられるのが特徴。また、法人や高齢者も一定の条件で申し込みを行うことが出来る。実際の融資金利が、申し込み受け付け月の約2カ月後(翌々月の月末)に決定するのも民間金融機関との違いとなっている」
--今後については。
「4月から新築建物の省エネ基準適合が義務化され、国は『子育てグリーン住宅支援事業』を6月30日から開始する。機構の賃貸住宅建設融資では、現在、『機構の定めるZEH基準に適合する住宅』『長期優良住宅』『子育て配慮賃貸住宅』を対象に、年0・2%(当初15年間)の金利引き下げを実施している。10月からは『長期優良住宅』に対する金利引き下げ幅を年0・3%に拡大させるとともに『まちづくり融資(長期建設資金)』でも『子育て配慮賃貸住宅』に対する金利引き下げ制度を利用できるように拡充していく」
融資方法の説明
■信託融資スキーム
密集市街地の再生と建て替え促進を支援する信託融資スキーム。同機構は、建て替えが困難な地域でも再整備を可能にする仕組みとして、信託会社とともに提供している。
このスキームでは、複数の地権者が信託契約を通じてそれぞれの不動産を信託会社に信託譲渡し、土地の一体的な利用を可能とする。信託会社が融資の申込人となり、建物を建設・運営し、収益を地権者に分配する。地権者は希望すれば建設した賃貸住宅に入居できる。接道の問題や資金調達の課題を解消し、個々の信用力に依存しない建て替えが可能。
なお、このスキームは、「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」または「まちづくり融資(長期建設資金)」のどちらを利用する場合でも利用することができる。
■賃貸住宅建設融資
省エネルギー性能や耐火性能など一定の条件を満たす賃貸住宅の建設を対象とした長期固定金利型の賃貸住宅ローン。「子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資」と「まちづくり融資(長期建設資金)」の2種類がある。主な特徴は次のとおり。
・長期固定金利で金利上昇による返済額増加を回避(15年固定金利・35年固定金利の2タイプから選択可能)
・法人も申し込み可能
・65歳以上も事業後継者と連名で申し込み可能
・実際の融資金利は申込受付月の2カ月後の月末に決定
・資金は、着工時や屋根工事完了時、竣工時に中間金として段階的に受け取ることが可能
ローンを利用するには担保や保証人等の利用条件や注意事項がある。
■子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資
世帯向けに十分な住宅の広さや一定の省エネルギー性能を有する賃貸住宅を建設するための賃貸住宅ローン。敷地面積が165m2以上、各住戸の専有面積が40m2以上、賃貸住宅部分の延べ面積が200m2以上などの基準を満たす共同建て等の賃貸住宅が融資対象となる。また、「一次エネルギー消費量等級5以上の住宅」または「トップランナー基準に適合する住宅」とする必要がある。
■まちづくり融資(長期建設資金)
災害に強い住宅市街地整備に貢献できる賃貸住宅に建て替えるための賃貸住宅ローン。敷地面積が原則100m2以上、各住戸の専有面積が原則30~280m2などの賃貸住宅であること(建築物要件)のほか、一定の用途地域内(住居系地域など)にあること及および整備改善を図る必要がある区域内(危険密集市街地、防火地域など)にあること(地域要件)、機構が指定する事業要件に該当する必要があること(事業要件)、という3つの要件を満たす必要がある。
なお、4月から「地域要件」を拡大し、地方公共団体が定める密集市街地も対象となった。