
暑中特集 変動する市場と戦略/転換期の不動産・建設業界 中小企業の課題と打開策/事業領域の拡張が活路に
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2025.08.05
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働き手不足、資材高騰、需要減退――不動産・建設業界はいま、大きな転換点に立たされている。中小企業から中堅企業まで、それぞれが異なる課題を抱えている。船井総研ホールディングス(東京都中央区、中谷貴之社長)の建設・不動産支援本部本部長松田崇氏に業界の現状と今後の展望について話を聞いた。
船井総研HD建設・不動産支援本部 松田崇本部長に聞く
建設・不動産業界の課題は、企業規模に応じて様相が異なる。中小企業では、集客の減少と需要の縮小が顕著だ。新築着工戸数の減少が目立ち、インターネット経由の反響数は目標の8割に留まるケースもある。中小の地場工務店ではここ2年、かなりの勢いで売り上げが落ちている。住宅需要の減退は人口減少に伴う長期的なトレンドによるところが大きく、劇的な反転上昇を期待することは難しい。
一方、中堅企業では、売上高100億円前後の好調な企業であっても「人材不足」と「建築の取引先不足」が重くのしかかる。特に専門性と経験を要する設計・施工管理などの建築部門、人手を要する業務の多い賃貸管理部門での人手不足が深刻だ。対して、営業職の不足感はあまりなく、人手不足は分野ごとに濃淡がある。
■新領域への進出とDX化
こうした状況を踏まえると、住宅分野の需要回復を見込むのは難しい。事業の横展開、事業領域の拡張に活路を見出すべきである。
中小企業にとっては、中古住宅の売買やリノベーション、外国人投資家向け物件、事業用地や民泊・ホテルといった宿泊施設の開発など、今までに企業が主戦場としてきた分野で獲得してきた知見を生かして事業領域を拡張し、新市場へ進出することが重要である。
中堅企業ではDX推進と一部業務の内製化がカギとなる。DX推進によって、従業員一人あたりが管理できる現場の数を増やし生産性を向上する。このような分野はDX推進によって生産性は向上しやすい。
実際、DXや生成AIの社内での活用は進み、短時間での高精度の設計パース作成や営業支援、物件提案の自動化などは既に行われ、今後これらの動きが業界全体に広まれば、労働集約型産業の不動産業界でも業界全体の生産性が向上する可能性はある。
業務の内製化では、建築部材のプレカット工程を自社工場で手がけ、工場での生産比率を高めることで現場での管理や属人的業務を減らす。品質向上だけでなく、現場での外国人材の活用も進めやすくなる。こうした取り組みが生産性を向上させ、人手確保が難しい中でも回せる現場づくりにつながる。
環境変化で事業「見直し」
■投資用マンションへのシフト
従来、ファミリー向け分譲マンションを主軸としていた中小デベロッパーは、ファミリー向け物件の需要減少という長期トレンドに加え、建設費の高騰や工期長期化の影響によって、新規の開発事業の縮小を余儀なくされ、その対応策として投資用マンションへのシフトを進めている。これまで投資用マンションを扱っていた企業は木造アパートも手がけるなどの展開を進めている。
観光・就労を目的とする訪日外国人の増加に伴うマンスリーマンションや民泊、無人ホテルなどの外国人向け物件への需要をしっかりと取り込むことが重要である。
■「ホテルのような賃貸物件」/初期費用ゼロ化の流れ
外国人向けのマンスリーマンションや民泊、無人ホテルに対する需要の高まりは、従来からの一般的な賃貸借契約の慣行を塗り替えていく可能性もある。長期滞在する外国人にとって、敷金・礼金などの契約時の一時金支払いや退去時の原状回復に関する手続きなどの日本特有の賃貸借の契約慣行は、馴染みがなく煩わしさを感じている。
長期滞在の外国人にとって、このような手続きや支払いがない民泊やマンスリーマンションは分かりやすく合理的な選択肢になっている。この流れを受けて、一般の賃貸市場でも初期費用ゼロの賃貸契約は増加。築古物件など、競争力が弱い物件から徐々に広まりを見せ、いずれ新築物件まで広まる可能性もある。
オーナー側は物件や資金の運用計画の見直しが必要になるだろう。併せて、管理会社も新たな付帯サービスの模索やオーナーへの提案などが必要になる。
人口減少の長期トレンドと、今年4月施行の建築基準法改正に伴う4号特例の縮小の影響を受け、新築戸建て市場からの撤退を視野に入れる地場工務店が増えている。新築戸建てに変わる事業として、アパート建築のほか、事務所・倉庫など事業用建築、福祉施設、民泊施設など、木造で対応可能な非住宅・中小規模建築に取り組み始めている。
空き家を活用したリノベーション・再販や、既存住宅の部分修繕など「小さな需要の積み重ね、まとめ直し」に商機を見出す動きも活発化。特にリフォーム分野へ進出している事業者が多い。
成長の〝鍵〟になるか
■不動産小口投資の広がりと今後
相続や対策を検討する高齢の富裕層だけでなく、若者など個人一般もクラウドファンディングや小口化商品などの不動産関連の投資商品に関心を持つようになった。不動産小口化商品は少額から始められ、小口ながらも都心の一等地に所有権を持てるステータス感や、実物不動産のような管理の手間がないこと、証券の管理にデジタル技術を用いるなどの動きから若者にも身近な投資商品になった。
首都圏を中心に投資物件市場は活況で、一棟ものの投資物件の販売が好調な中、大手企業は商品組成に手間がかかる小口化への参入には慎重な構えだ。
ベンチャー企業は急成長のチャンスとして捉え、積極的に進めている。クラウドファンディングも小口化商品も、制度的に未整備な側面もあり、人気の広まりと共に新たな規制の可能性から不確実性もはらんでいるとも注意喚起し、この領域の先行きの不透明さに対して懸念を示している。
■買い手と販売方法に変化
市場構造そのものも、かつての「BtoC」(個人向け)から、「BtoB」、つまりプロ間の取引が増加している。背景には、一般の個人投資家では手が届かないほど物件価格が高額化し、セールスのターゲットを「購買力の強さ」という面から見たとき、ターゲットの属性が急速に変化していることが挙げられる。
販売方法にも変化が見られる。金融機関と連携し、購買力のある経営者層などへ金融機関からの融資とセットにしてアプローチする動きが増加している。このような市場の動きに合わせて、事業を転換していく必要がある。
■「外部・専門人材の経営層への投入」と「戦略的大規模投資」
当社と神戸大学の共同研究の結果として、中小企業が100億円企業へと成長するには、部材生産の内製化やDX化などによる既存事業の精緻化や新規事業の成功だけでなく「経営チームの質の向上」と「戦略的大規模投資」がカギとなる。
「経営チームの質の向上」は、営業や仕入れといった従来の担当領域に加え、DX担当役員や人事担当役員など専門性を持った人材を外部から経営中枢に迎え入れることが、構造転換期による企業変革の推進力になるだろう。
「戦略的大規模投資」では、物件購入ではなく、生産性向上や将来の売上増加につながる分野へ、この数年でいかに大規模な投資ができるかが、これが今後の成長する企業として重要となるという。
船井総研HD建設・不動産支援本部 松田崇本部長に聞く
建設・不動産業界の課題は、企業規模に応じて様相が異なる。中小企業では、集客の減少と需要の縮小が顕著だ。新築着工戸数の減少が目立ち、インターネット経由の反響数は目標の8割に留まるケースもある。中小の地場工務店ではここ2年、かなりの勢いで売り上げが落ちている。住宅需要の減退は人口減少に伴う長期的なトレンドによるところが大きく、劇的な反転上昇を期待することは難しい。
一方、中堅企業では、売上高100億円前後の好調な企業であっても「人材不足」と「建築の取引先不足」が重くのしかかる。特に専門性と経験を要する設計・施工管理などの建築部門、人手を要する業務の多い賃貸管理部門での人手不足が深刻だ。対して、営業職の不足感はあまりなく、人手不足は分野ごとに濃淡がある。
■新領域への進出とDX化
こうした状況を踏まえると、住宅分野の需要回復を見込むのは難しい。事業の横展開、事業領域の拡張に活路を見出すべきである。
中小企業にとっては、中古住宅の売買やリノベーション、外国人投資家向け物件、事業用地や民泊・ホテルといった宿泊施設の開発など、今までに企業が主戦場としてきた分野で獲得してきた知見を生かして事業領域を拡張し、新市場へ進出することが重要である。
中堅企業ではDX推進と一部業務の内製化がカギとなる。DX推進によって、従業員一人あたりが管理できる現場の数を増やし生産性を向上する。このような分野はDX推進によって生産性は向上しやすい。
実際、DXや生成AIの社内での活用は進み、短時間での高精度の設計パース作成や営業支援、物件提案の自動化などは既に行われ、今後これらの動きが業界全体に広まれば、労働集約型産業の不動産業界でも業界全体の生産性が向上する可能性はある。
業務の内製化では、建築部材のプレカット工程を自社工場で手がけ、工場での生産比率を高めることで現場での管理や属人的業務を減らす。品質向上だけでなく、現場での外国人材の活用も進めやすくなる。こうした取り組みが生産性を向上させ、人手確保が難しい中でも回せる現場づくりにつながる。
環境変化で事業「見直し」
■投資用マンションへのシフト
従来、ファミリー向け分譲マンションを主軸としていた中小デベロッパーは、ファミリー向け物件の需要減少という長期トレンドに加え、建設費の高騰や工期長期化の影響によって、新規の開発事業の縮小を余儀なくされ、その対応策として投資用マンションへのシフトを進めている。これまで投資用マンションを扱っていた企業は木造アパートも手がけるなどの展開を進めている。
観光・就労を目的とする訪日外国人の増加に伴うマンスリーマンションや民泊、無人ホテルなどの外国人向け物件への需要をしっかりと取り込むことが重要である。
■「ホテルのような賃貸物件」/初期費用ゼロ化の流れ
外国人向けのマンスリーマンションや民泊、無人ホテルに対する需要の高まりは、従来からの一般的な賃貸借契約の慣行を塗り替えていく可能性もある。長期滞在する外国人にとって、敷金・礼金などの契約時の一時金支払いや退去時の原状回復に関する手続きなどの日本特有の賃貸借の契約慣行は、馴染みがなく煩わしさを感じている。
長期滞在の外国人にとって、このような手続きや支払いがない民泊やマンスリーマンションは分かりやすく合理的な選択肢になっている。この流れを受けて、一般の賃貸市場でも初期費用ゼロの賃貸契約は増加。築古物件など、競争力が弱い物件から徐々に広まりを見せ、いずれ新築物件まで広まる可能性もある。
オーナー側は物件や資金の運用計画の見直しが必要になるだろう。併せて、管理会社も新たな付帯サービスの模索やオーナーへの提案などが必要になる。
人口減少の長期トレンドと、今年4月施行の建築基準法改正に伴う4号特例の縮小の影響を受け、新築戸建て市場からの撤退を視野に入れる地場工務店が増えている。新築戸建てに変わる事業として、アパート建築のほか、事務所・倉庫など事業用建築、福祉施設、民泊施設など、木造で対応可能な非住宅・中小規模建築に取り組み始めている。
空き家を活用したリノベーション・再販や、既存住宅の部分修繕など「小さな需要の積み重ね、まとめ直し」に商機を見出す動きも活発化。特にリフォーム分野へ進出している事業者が多い。
成長の〝鍵〟になるか
■不動産小口投資の広がりと今後
相続や対策を検討する高齢の富裕層だけでなく、若者など個人一般もクラウドファンディングや小口化商品などの不動産関連の投資商品に関心を持つようになった。不動産小口化商品は少額から始められ、小口ながらも都心の一等地に所有権を持てるステータス感や、実物不動産のような管理の手間がないこと、証券の管理にデジタル技術を用いるなどの動きから若者にも身近な投資商品になった。
首都圏を中心に投資物件市場は活況で、一棟ものの投資物件の販売が好調な中、大手企業は商品組成に手間がかかる小口化への参入には慎重な構えだ。
ベンチャー企業は急成長のチャンスとして捉え、積極的に進めている。クラウドファンディングも小口化商品も、制度的に未整備な側面もあり、人気の広まりと共に新たな規制の可能性から不確実性もはらんでいるとも注意喚起し、この領域の先行きの不透明さに対して懸念を示している。
■買い手と販売方法に変化
市場構造そのものも、かつての「BtoC」(個人向け)から、「BtoB」、つまりプロ間の取引が増加している。背景には、一般の個人投資家では手が届かないほど物件価格が高額化し、セールスのターゲットを「購買力の強さ」という面から見たとき、ターゲットの属性が急速に変化していることが挙げられる。
販売方法にも変化が見られる。金融機関と連携し、購買力のある経営者層などへ金融機関からの融資とセットにしてアプローチする動きが増加している。このような市場の動きに合わせて、事業を転換していく必要がある。
■「外部・専門人材の経営層への投入」と「戦略的大規模投資」
当社と神戸大学の共同研究の結果として、中小企業が100億円企業へと成長するには、部材生産の内製化やDX化などによる既存事業の精緻化や新規事業の成功だけでなく「経営チームの質の向上」と「戦略的大規模投資」がカギとなる。
「経営チームの質の向上」は、営業や仕入れといった従来の担当領域に加え、DX担当役員や人事担当役員など専門性を持った人材を外部から経営中枢に迎え入れることが、構造転換期による企業変革の推進力になるだろう。
「戦略的大規模投資」では、物件購入ではなく、生産性向上や将来の売上増加につながる分野へ、この数年でいかに大規模な投資ができるかが、これが今後の成長する企業として重要となるという。