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住生活月間特集①/マンション防災力向上を後押し/東京都 災害時の居住継続目指す

住生活月間特集①/マンション防災力向上を後押し/東京都 災害時の居住継続目指す

  • 2025.10.09
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災害時は自宅にとどまれるように、東京都はマンション防災力向上に力を入れている

「東京とどまるマンション」補助金
防災備蓄資器材の購入費用

マンホールトイレ用の排水管、汚水ますなどの下部構造物、雨水貯留タンクの設置補助

エレベーターのリスタート運転機能や、自動診断・仮復旧運転機能の追加費用補助

 東京都は、災害時にもマンション居住者が自宅で生活を継続できる環境を整えるため、多角的な施策を推進している。中核となるのは管理組合に専門家を派遣する「マンション社会的機能向上支援事業(分譲)」と「東京とどまるマンション」の登録制度だ。両制度は目的や対象に重なる部分を持ちながら、前者は管理組合の運営や居住者支援などソフト面を後押しするのに対し、後者は物理的な設備や備えのハード面の強化に重点を置く。東京都はソフトとハードの両輪を組み合わせることで、在宅避難を前提とした都市防災力の底上げを図る。

■管理組合の防災・認知症対応で直接支援
 マンション全体の防災力を向上させるためには、管理組合の防災対策の取り組みが重要だが、管理組合だけで十分な対応策を整えるのは難しく、知識や経験不足から準備が進まない事例は多い。居住者の高齢化に伴い認知症居住者が増加しており、総会での円滑な意思決定に支障が生じる恐れもある。
 こうした課題を踏まえ、東京都は専門講習を受けたマンション管理士を派遣し、組合運営を直接支援する「マンション社会的機能向上支援事業(分譲)」に取り組んでいる。
 助言の内容は、居住者名簿の整備や発災時の対応マニュアル作成に加え、認知症居住者が増えるなかで合意形成を円滑に進めるための工夫、介護や医療との連携方法、バリアフリー改修を含む長期修繕計画の立案まで多岐にわたる。
 利用は無料で、原則として1組合につき防災と認知症対応それぞれ1回ずつが基本。希望があれば同一テーマで、2回の派遣も可能だ。今年度は200件を上限に申し込みを受け付けており、定員に達し次第締め切られる。管理士派遣という人的資源を活用したこの制度は、ハード整備が中心となる補助事業と補完し合い、運営体制そのものを強化する役割を果たしている。

「東京とどまるマンション」登録制度
 「東京とどまるマンション」は、災害時でも生活を継続できる体制を備えたマンションを登録・公表し、登録マンションの防災対策に補助を行う制度をいう。
 耐震基準を満たすか耐震診断・改修によって適合が確認された建物が対象だ。停電時にも水の供給やエレベーター運転を可能とする非常用電源設備、防災マニュアルの策定を必須要件とする。年1回以上の防災訓練、飲料水や食料の備蓄、応急用資器材の確保、災害時の連絡体制整備のいずれかに取り組む必要がある。
 登録を受けることで初めて、防災資器材や設備整備の補助事業を利用できる仕組みだ。「東京とどまるマンション」を軸に、普及促進事業、マンホールトイレ整備促進事業、エレベーター閉じ込め防止対策促進事業、非常用電源導入促進事業、浸水対策設備導入促進事業の5事業を展開し、都が在宅避難力の指標として普及を進めている。

■防災備蓄資器材購入の補助
 普及促進事業では、登録マンションに日常から備えておくべき防災資器材の購入に補助金を支給する。対象は発電機や簡易トイレ、防災キャビネット、給水タンク、炊き出し器などで、飲料水や食料は含まれない。マンション単体での防災訓練を行う場合の補助率は購入額の3分の2(上限66万円)だが、町会等と合同で防災訓練を実施する場合は地域連携枠が適用され、上限100万円として全額を補助する。
 資器材の購入は初動対応を強化する上で不可欠であり、物資が供給されるまでの数日間を自力でしのぐための備えを後押しする狙いがある。

■マンホールトイレの整備支援
 地震でマンションの排水管が損傷すると、上階でトイレを使用した際に下階で汚水が逆流し、深刻な衛生問題を引き起こす危険性がある。衛生環境を守ることは居住継続の大前提であり、トイレ対策の強化は在宅避難の成否を左右する要素であることをふまえ、マンホールトイレ整備促進事業では登録マンションのマンホールトイレ整備に補助を行う。
 対象となるのはマンホールトイレ用の排水管や汚水ます、雨水貯留タンクの設置工事で、新築マンションは対象外。補助率は3分の2で上限40万円。

■エレベーター閉じ込め防止対策
 地震時に多発するエレベーター閉じ込め事故を防ぐため、エレベーター閉じ込め防止対策促進事業でエレベーターの防災対策にも補助を行う。
 補助対象は、リスタート運転機能や自動診断・仮復旧運転機能の追加だ。リスタート機能とは地震発生後に最寄り階へ自動停止させ、閉じ込めを防ぐ仕組み。自動診断・仮復旧運転機能は低速無人運転で安全を確認し、異常がなければ仮復旧させる仕組みを備えている。補助率は2分の1で上限200万円。
 高層住宅ではエレベーターの停止が生活継続の可否に直結するため、都はこの機能導入を重視している。

■非常用電源・浸水対策設備の導入支援
 災害で停電が発生すると水道やエレベーターの停止によって、ライフラインが止まってしまう。災害時にも安心してマンションにとどまるために必須なのが非常用電源だ。非常用電源導入促進事業では登録マンションの発電機や蓄電池の購入経費に補助を行う。浸水対策設備導入促進事業で非常用電源を守る止水版などの浸水対策の費用も補助する。
 発電機の導入は補助率2分の1(上限1500万円)、蓄電池は補助率4分の3(上限1316万円かつ1時間ごと1㌔㍗につき18・8万円)を補助する。止水板、防水扉、防水シャッターの改修など浸水対策の補助率は2分の1(上限75万円)だ。
 大規模な電源設備の導入や浸水対策を後押しすることで、長期停電、浸水被害が発生しても居住を継続できる体制を整える。

■ハードとソフトの両輪で防災力を底上げ
 東京都は、「マンション社会的機能向上支援事業」で管理組合の知識と運営体制を整備し、「東京とどまるマンション」関連事業で具体的な設備や備えを強化するという、2つの柱を組み合わせた政策を展開している。いずれも耐震性確保と防災マニュアル策定を共通要件とし、ハードとソフトを車の両輪とする総合的な防災力向上を狙う。
 東京都は、災害時にマンション居住者が避難所に流入せず自宅で暮らし続けられることが都市全体の防災力を高めると位置づけ、制度の普及に注力している。各管理組合や所有者も、利用できる補助や支援を最大限活用し、自らのマンションを「とどまれる場所」として備えておく必要がある。
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