住生活月間特集②／防音賃貸に照準、住居で「配信」「音楽」に対応／都市での新しい選択肢、共用部にも設置

　都市居住の価値観がこの数年で大きく変わった。テレワークやオンライン会議が日常化し、動画配信やゲーム実況、楽器演奏といった活動も身近になった。他方で、集合住宅に暮らす以上は周囲への配慮も欠かせない。「静かに過ごしたい」と「気兼ねなく音を出したい」という一見相反する欲求を、建築的に解決しようとする動きが賃貸市場で加速している。防音仕様の賃貸マンション開発に進出したタカラレーベンや東急不動産、東京建物、三信住建の取り組みを見てみる。

■タカラレーベン／入居者ニーズと賃料設定
　タカラレーベンは、ハイグレード賃貸「ＬＵＸＥＮＡ（ラグゼナ）」に特別なテーマを加える新シリーズ「ＬＵＸＥＮＡ＋（ラグゼナプラス）」の第１号物件として、防音ルームを備えた「ＬＵＸＥＮＡ＋ＯＴＯ南千住」（東京都荒川区）を竣工。
　防音ルームの防音性能はＤ―70（自主測定値）を達成し、これは約１１７デシベルの音を47デシベル程度まで抑える性能で、グランドピアノの設置や24時間演奏にも対応できる水準だ。
　住まいに求められるニーズは多様化・細分化し「住む」だけではない付加価値が不可欠になっている。ペット共生や音楽を思い切り楽しめる環境など、従来型の賃貸に不足していたプラスアルファを提供するのが「ＬＵＸＥＮＡ＋」の狙いだ。その第一弾として南千住を選んだ背景には、幹線道路沿いという立地条件と、東京芸術大学がある上野までの良好なアクセス面から防音特化型を打ち出した。
　入居者ヒアリングの結果によると、全体の約60％が楽器演奏を主目的に入居し、約30％は動画配信や音楽鑑賞など、防音室を多目的に活用している。立地や住宅設備の充実、ペット飼育可能といった条件を評価したという入居者も一定数存在する。
　賃料は南千住エリアの一般的な相場と比較して約１・３倍に設定されている。市場調査によると、防音マンションのプレミアムは相場比１・２倍程度が目安だが、同物件は「防音＋高級賃貸」という付加価値を加味し、グレード感のある設定とした。
　南千住は都心アクセスの良さから、東京芸大関係者や都心通勤層のニーズを取り込める立地だ。地域との接点強化も進め、東京音楽大学のコンサートへの広告掲載や昭和音楽大学主催の「Ｊａｐａｎ　Ｊａｚｚ　Ｐｏｐ　Ｐｉａｎｏ　Ｃｏｍｐｅｔｉｔｉｏｎ　２０２５」への協賛を行った。
今後については今回の賃貸での実績を踏まえ、分譲物件への防音仕様導入も検討の可能性がある。

■東急不動産／森下と平井の城東エリアに展開
　東急不動産は８月、防音性能を高めた賃貸レジデンス「コンフォリア・リヴ森下　ＭＵＴＩＯ（ミューティオ）」（江東区森下３丁目）と「コンフォリア・リヴ平井　ＭＵＴＩＯ」（江戸川区平井２丁目）の２物件を竣工した。いずれも同社の賃貸ブランド「ＣＯＭＦＯＲＩＡ（コンフォリア）」シリーズの新提案であり、これまで音楽大学や専門学校周辺に限定されがちだった防音マンションを供給の少ない城東エリアに展開した点が大きな特徴だ。
　ブランド名「ＭＵＴＩＯ」は、ＭＵＴＥ（消音）とＳＴＵＤＩＯ（創造空間）を掛け合わせた造語。楽器演奏や歌唱だけでなく、作曲・レコーディング、動画配信、リモートワーク、趣味の活動まで、多様なライフスタイルに対応する防音住宅を目指した。「日常的に音を楽しみたい」「創作活動を暮らしに組み込みたい」という居住者層に、新しい住環境の選択肢を提供する。
　「森下」は都営地下鉄都営大江戸線森下駅徒歩５分、鉄筋コンクリート造（ＲＣ造）10階建て、全36戸で、玄関・水回りを除く居室全体を防音仕様とした。「平井」はＪＲ総武本線平井駅徒歩８分、ＲＣ造６階建て、全56戸のうち30戸を防音仕様とし、約50㎡の防音コミュニティルームを共用部に整備。入居者同士がセッションや配信イベント、ワークショップを行える場とし、音楽や音のあるライフスタイルを「個人」から「コミュニティ」へと広げる新たな住まい体験を広げるとしている。
　建具や二重アルミサッシの組み合わせで、ピアノやギター、声楽、トランペットなどの多様な楽器演奏に対応。打楽器を除き、隣戸への音漏れを抑える構造を備え、従来の「時間制限付き演奏可能マンション」とは異なり、日常的に音楽活動や収録が可能だ。

■東京建物・三信住建／共用サウンドルームと屋上菜園も設置
　東京建物と三信住建は、賃貸マンション「Ｂｒｉｌｌｉａ　ｉｓｔ池尻大橋」（目黒区大橋２丁目）を１月に竣工した。東急田園都市線池尻大橋駅徒歩４分という立地で、地下１階地上７階建て、総戸数１９７戸の大規模物件だ。
　同シリーズでは初となる防音住戸と共用サウンドルームを備え、楽器演奏や動画配信、ゲーム実況にも対応する。屋上菜園を備えたルーフトップガーデンを整え、多様化する都市生活者のこだわりのライフスタイルを後押しする。
　専有部には９戸の防音住戸を設置し、そのうち４戸はゲーミングルームとしても利用可能。楽器演奏はもちろん、動画配信やゲーム実況といった新しいカルチャーにも対応する。共用部には約７㎡のサウンドルームを整備。入居者は有料で利用でき、楽器の練習などに活用可能だ。
　屋上には12区画の屋上菜園を整備した。大建工業が提供する「みんなのエコ菜園」システムを導入し、国産木材の端材や未利用材から作られた環境配慮型培地を使用している。多彩な野菜栽培が可能で、循環型社会の推進にも寄与する狙いがある。
　同物件は大規模マンションならではの共用施設を整え、ラウンジやジム、ワーキングブースで多様な働き方・暮らし方を支援する。１階には24時間利用可能な無人コンビニを設置し、館内には高速回線と雑誌読み放題サービスを備えるなど、利便性と娯楽性を両立している。
　環境面では断熱性能や太陽光発電を組み合わせ「ＺＥＨ―Ｍオリエンテッド」に適合し、蓄電池で発電電力を有効活用する。不要品回収・再流通サービスも導入し、廃棄物削減・資源循環を推進している。