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シニア・住み替え特集/2026年4月施行 区分所有法改正/建て替え以外の選択肢増やした「終い方」

シニア・住み替え特集/2026年4月施行 区分所有法改正/建て替え以外の選択肢増やした「終い方」

  • 2025.07.28
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 マンションの老朽化、区分所有者の高齢化という「二つの老い」を背景事情とし、耐震性不足等危険性のある建物の建て替えの必要性が高まった。更に、容積率やコストが障害となり建て替えが困難なケースもあることから、建て替え以外の再生メニューを増やし、区分所有関係の解消も含めたいわば「終い方(しまいかた)」が区分所有法に規律された。日頃の管理を充実させることで建物の長寿命化を図る観点から、管理の円滑化の規律も設けた。
 区分所有法は、分譲マンションや、各室が独立した区分所有権の対象となっている商業ビルに適用がある。これに対し、1棟全体を同一所有者が所有し、各部屋を賃貸しているような共同住宅には(区分所有方式の登記になっていない)区分所有法の適用はない。

寄稿/法務省法制審議会区分所有法制部会委員 弁護士 大桐代真子
1 管理の円滑化
(1)出席者の多数決制度の導入
 管理に無関心な者が増加し、集会への出席率が低下傾向にある(投資用・大型マンションにおいて顕著)。必要な措置を実現できるようにするため、決議の円滑化の必要性が高まり、出席者の多数決制度が導入された。
 定期修繕、外壁塗装などの管理行為は、出席者の過半数(普通決議)で可能である。
 一方、特別決議事項(共用部分の変更、大規模一部滅失の復旧、規約変更、管理組合法人の設立及び区分所有権の取得、共同利益背反行為者に対する措置、団地内建物の建て替え承認)は、決議の重大性ゆえ非賛成者に及ぼす不利益も大きいことから、出席者の多数決制度を導入しつつ、法律で原則的な定足数を過半数とした(規約で定足数の厳格化は可)。
 なお、区分所有建物の建て替え等、区分所有権の処分を伴う決議は、売渡し請求により区分所有権を喪失するなどの重大性から、出席者多数決制は導入されず、絶対多数決制が維持された。
(2)集会決議の母数から除外する仕組み
 所在等不明区分所有者について、裁判所による除外決定を経れば、集会の決議の母数から除外できる制度が導入された。全ての決議が対象である。
(3)財産管理制度
 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度として、①~③が新設された。
 ①所有者不明専有部分管理制度(新法46条の2・87条)
 ②管理不全専有部分管理制度(新法46条の8・88条)
 ③管理不全共用部分管理制度(新法46条の13・88条)
 上記①は、長期所在等不明の空き家で室内や配管修理が必要な場合などにおいて、利害関係人から申し立てがなされ、裁判所から選任された管理人が専有部分について管理処分権限を専属的に保有し、さまざまな管理行為を実施し、更に、裁判所の許可を得れば売却等の処分行為も可能な制度である。
 他方、前述②③では、区分所有者が居るものの、管理不全で周囲に迷惑をかけている場合などにおいて、他の区分所有者や周辺住民などが裁判所に申し立て、選任された管理人がゴミの処分などの必要な管理行為を行うことができる制度である。しかし、管理処分権が専属せず(本人にも管理処分権がある)、専有部分・共用部分の処分行為(建物解体や区分所有権の売却等)には区分所有者・共有者本人の同意が必要である。
(4)共用部分の変更
 共用部分の変更は、形状または効用について著しい変更を伴うものをいう。
 決議の必要性と非賛成者への影響の大きさを配慮し、①または②の場合に多数決割合を、出席した区分所有者及びその議決権の各3分の2以上(多数決割合は、更に規約で過半数まで緩和可)とした(新法17条4項)。
 ①共用部分の設置又は保存の瑕疵による権利侵害またはそのおそれがある場合の瑕疵除去に必要な変更
 ②いわゆるバリアフリー基準への適合のために必要な変更
 これに対し、①②以外のケース(緩和対象でない場合)では、多数決割合は4分の3以上である(出席者多数決である点で、旧法よりは緩和された)。
(5)管理組合法人による区分所有権等の取得
 管理のために必要な場合、出席した区分所有者及びその議決権の各4分の3以上の多数決によって、区分所有権の取得や、建物及び建物が所在する土地と一体として管理使用すべき土地を取得できることが明文化された(新法52条の2)。
(6)国内管理人の仕組み
 投資目的の取得により、区分所有者が国籍を問わず国外にいるケースが増加し、管理が行き届かない事案が報告された。そこで、区分所有者が国外にいる場合、国内管理人を選任でき、権限の範囲が法定された。規約において選任の義務付けは可能である(新法6条の2)。
(7)共用部分等に係る請求権の行使の円滑化
 各区分所有者の有する共用部分等に係る請求権を、管理者(理事長など)が代理行使及び訴訟追行ができるという区分所有法26条、47条がある。
 たとえば、分譲時の施工ミスなどにより共用部分の欠陥が生じると、その購入者に損害賠償請求権が生じる。その後、専有部分を転売しても、請求権を債権譲渡しない限り、旧区分所有者に残存するため、共用部分の修繕促進を阻害していることが問題となった。
 そこで、改正法では、原則として管理者は、請求権者が区分所有権の譲渡等により区分所有者でなくなっても代理行使等ができるとした(新法26条2項、4項)。ただし、代理行使等を拒む意思表示をした旧区分所有者の請求権についてまでは代理行使等ができない(同条2項)ので、共用部分の修繕促進を高めるためには、予め規約の定めによるフォローが必要である。

2 再生の円滑化
(1)建て替え決議の多数決要件の緩和
 反対少数者の権利保護を図りつつ建て替え促進の要請との調和を図る見地から、建て替え決議の多数決要件について、基本的に、現行法62条1項の規律(5分の4以上)を維持しつつ、客観的な緩和事由がある場合に限り、4分の3以上に緩和した。
 具体的な客観的緩和事由は、▽地震に対する安全性に係る建築基準への不適合、▽火災に対する安全性に係る建築基準への不適合、▽外壁等剥離落下により危害を生ずるおそれ、▽給排水管の劣化により著しく衛生上有害となるおそれ、▽高齢者・障害者等移動等円滑化促進法のバリアフリー基準への不適合がある。
(2)建て替え決議と賃貸借終了請求制度
 建て替え促進の要請と賃借人保護との調和を図る見地から、建て替え決議があった場合は、賃貸人たる区分所有者または決議に賛成した区分所有者等が、賃借人に対する終了請求をした日から6カ月経過により賃貸借が終了するとしつつ、適正な補償金が提供されるまでは賃借人は明け渡しを拒むことができるとして、賃借人保護を図った(新法64条の2)。適正補償金が提供されているにもかかわらず、明け渡しを拒むと、違約金の問題が生じ得る。
 この制度は、客観的な緩和事由(建物の耐震上の危険性等)が認められない区分所有建物についても適用される。賃借人としては、建て替え決議が議題に出ているか等、着目すべきであろう。
(3)その他
 建て替え以外の選択肢として区分所有法上、一棟リノベーション(新法64条の5)、建物敷地売却(新法64条の6)、建物取壊し敷地売却(新法64条の7)、建物取壊し(新法64条の8)が新設された。このほか、団地に関する規律や、政令指定災害の特例である被災区分所有法も改正された。(単棟の多数決要件は別表参照)
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