新年特集 事業環境、新たな領域に/「苛政の時代」の処方箋/アンビシャス 安倍徹夫社長に聞く
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2026.01.05
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不動産価格の高騰が全国で続き、住宅取得の難しさは過去に例を見ない水準に達している。アンビシャス(東京都新宿区)の安倍徹夫社長は、都心だけでなく郊外でも一般家庭が住宅購入から排除されつつある現状を指摘した。背景には、投機資金の流入、円安と物価高、政策的歪みが複雑に絡む。「かつてのバブル期でも家は買えた」「苛政の時代に入った」と語る安倍社長に、住宅市場の根本的な問題と、実需を守るための方策を聞いた。
―なぜ、価格が上がっているのか。
バブルの頃は、投資と投機による「マンション転がし」「不動産転がし」と呼ばれる短期転売が盛んだったが、扱っている人達も何か罪悪感を持ち、社会がそういう行為に批判的で、いずれどこかがババを掴んで破綻するという見方が大勢を占めていた。その後、不動産価格は大きく崩れていった。
今はそのとき以上の高値で取引されているが、昔のような批判的な声は意外と少ない。海外・国内からの投機と投資目的の資金流入に加え、相続税対策や投機目的で土地や建物を取得し、短期間に高値で売り抜ける。そういった取引が実需の価格を大きく上回り、「まだまだ値段が上がっていくだろう」という楽観的な見方が大勢を占めている。このような市場環境が格差社会を形成している大きな原因になっていると思う。都心の商業施設、タワマンなどの高額な取引が、実需で住宅を求めている人達を都心から都内、都内から郊外へと押し出し、スプロール化の原因となっていると思われる。一方で、郊外エリアの投機的な取引はほとんどない。
それにもかかわらず、郊外のマンションはつい最近まで70㎡で3000万円~4000万円だったものが、今は7000万円、8000万円となり、一般の人達ではとても手が出ない価格になっている。
―マンション用地の確保が難しい背景。
ゼロ金利政策や金融緩和政策などで、大都市の都心を中心に国内外から膨大な投資資金が流入している。
これによりオフィスビルや1棟レジデンス、商業施設などの取引が活発になり、価格が大きく上昇した。その結果、マンションは実需には手が届かなくなってきている。
かつては、まとまった用地の主な売却先は、マンション用地が大きなウエイトを占めていたが、現在ではオフィスビル、賃貸マンション、ホテル、商業施設、物流施設などと競合し、価格競争になるとマンションは他の用途の不動産には勝てない。
―外国人の不動産購入をどう見るか。投機と言われることもあるが。
当社が対応している外国人顧客は「みなさん実需」。永住権を取得し、日本に住み、働き、家族と永住しようという人たちだ。「外国人だから買うな」とは決して言えない。住宅に求める実需のニーズは日本の人たちと同じだ。
問題は国内外からの投機資金だ。外国人による取引を実需と投機の区別もつけず、ひとまとめに規制をかけることは、海外からの労働力に頼っている現状では、日本にとっては大きな不利益になると思う。海外の人達がより良い生活と安定を求めて日本に来て、生活基盤を得るために住宅を必要としている。
中国本土では不動産市場が不安定化し、高値買いを続けるような投機行動は激減している。中国の大都市の不動産価格が崩れている。人口約3200万人の重慶市などの主要都市は、不動産が大幅に値崩れして、惨憺たる状態になっていると聞いている。習政権下で、高額の資金の持ち出しも厳しくなっているとも聞いている。
軍用地周辺の大規模な土地購入や、防衛庁市ヶ谷庁舎周辺などの土地の買い占めはある目的をもって購入されるので、厳しい規制をかけるのは当然のこと。海外からの多くの人達が永住権を取って、日本で子育てをして、2世、3世が巣立っていくのはグローバル化の自然の流れ。スポーツや芸術、科学や医学など、海外からの2世、3世が活躍している。排他的な風潮が強くなることは、人口がどんどん減少し、働く人達が少なくなっている日本の現状にとってはとても好ましいことだとは思えない。
投機マネーと円安が住宅市場をゆがめる
―円安や物価上昇が住宅価格に与える影響は。
過去、日銀の政策転換で長く続いていたデフレを抑制するために、ゼロ金利政策やマイナス金利政策、大規模な金融緩和政策などが打ち出され、黒田バズーカ砲が拍車をかけた。
物価上昇率2%を目指す「量的・質的金融緩和」を導入した2013年の普通国債残高743兆円は、25年度末には1129兆円超になると見込まれている。結果として、大量の資金が市場に放出され、円の価値は大きく下落した。円の流通が倍になれば、円の価値は半分になる。
具体的には7年前は110円、2011年頃には70円台の円が昨年末には157円まで安くなった。円の価値が下がれば不動産のような代替性のない資産の価値は上がり、不動産への投資意欲が刺激され取引が活発化になっていく。ゼロ金利政策は、これら不動産投資を下支えした。
資金調達コストが低下する中、国内の投資のみならず、ドルや元、ユーロから見た「日本の安い不動産」は、国際的な投資・投機の対象となった。
円安が輸入物価の上昇を招き、海外から見れば、日本は「安い賃金」「安い材料」「安い商品」などを有する国となり、輸出は大きく伸びたが、国内では円安の影響で物価が上昇し家計を圧迫している。不動産価格はどんどん上がり、物価の上昇が続き、生活は苦しくなっている。物価上昇で、実質賃金が下がり、膨大な投資資金が不動産市場を席巻し、一般の人には住宅の購入が高嶺の花になっている。
―短期転売や監視区域制度、規制強化の議論と課題。
短期転売がすべて悪いわけではない。業者が中古物件を買い取り、リノベーション工事の後、適正な利益を上乗せして、新築が高くて手が届かない実需の人達に販売することは健全な事業だ。短期転売に一律に規制をかければ、多くの事業会社の死活問題となる。換金を急いで安い価格で売却をする人達もいる。
問題は投機マネーが価格を押し上げていること。数億円のタワマンの再販に規制をかけることには理があると思う。
バブルの時に異常に値上がりを続けて、監視区域の設定や短期転売に高額な課税をかけることで規制を強化し、一気に地価が下がった。そして、その後にマンションブームが起きた。
三重野日銀総裁の政策転換で、大手の銀行、証券会社、不動産会社が破綻した。急ブレーキで市場が一気に冷えた。当時は全国津々浦々がバブルだったが、今は大都市の都心とその周辺に限定され、局所的なもの。円安の影響で物価が上昇し、実質賃金が落ち込み、取引価格が天井を超えて売り圧力が強くなっているところもある。日銀の政策転換で大きく流れが変わるとすれば、どのように規制をかけていくのか非常に難しい課題だと思う。
―現在の市場環境を「苛政の時代」と表現したが、その意味は。
孔子の言葉で「苛政は虎よりも猛し」とあるが、過酷な税や制度で苦しめられている村に住むよりも、虎が住んでいる村の方がまだ安心で、そちらには移らないということわざ。60年近くマンション事業に取り組んできたが「持てる人と持てない人の差」が、これほどの格差は過去に経験がない。
―状況を改善するための政策に何が必要か。
最も重要なこととして、1つは市場を実需本位に戻す政策が打ち出されることだと思う。バブル時には著しい価格上昇を抑えるために短期譲渡に重課税をかけたり、監視区域を設けて高値取引をけん制した。その後急ブレーキがかかり、バブルが崩壊し、銀行や証券会社など企業は倒産した。今はバブル時と違い経済や不動産はグローバル化していて経営のかじ取りは非常に難しく、過去のやり方の踏襲では傷の痛みが大きいと思う。
2つ目は税制の改正で、(東京以外)他の道府県の税収が増えること。その要因として、住民税や固定資産税などの東京の税収が全国の4割を占めているとも聞いているため。税制の改正で神奈川、千葉、埼玉など近隣の県でも税収が増えていくことが一極集中の是正に多少寄与していくのかもしれない。
―なぜ、価格が上がっているのか。
バブルの頃は、投資と投機による「マンション転がし」「不動産転がし」と呼ばれる短期転売が盛んだったが、扱っている人達も何か罪悪感を持ち、社会がそういう行為に批判的で、いずれどこかがババを掴んで破綻するという見方が大勢を占めていた。その後、不動産価格は大きく崩れていった。
今はそのとき以上の高値で取引されているが、昔のような批判的な声は意外と少ない。海外・国内からの投機と投資目的の資金流入に加え、相続税対策や投機目的で土地や建物を取得し、短期間に高値で売り抜ける。そういった取引が実需の価格を大きく上回り、「まだまだ値段が上がっていくだろう」という楽観的な見方が大勢を占めている。このような市場環境が格差社会を形成している大きな原因になっていると思う。都心の商業施設、タワマンなどの高額な取引が、実需で住宅を求めている人達を都心から都内、都内から郊外へと押し出し、スプロール化の原因となっていると思われる。一方で、郊外エリアの投機的な取引はほとんどない。
それにもかかわらず、郊外のマンションはつい最近まで70㎡で3000万円~4000万円だったものが、今は7000万円、8000万円となり、一般の人達ではとても手が出ない価格になっている。
―マンション用地の確保が難しい背景。
ゼロ金利政策や金融緩和政策などで、大都市の都心を中心に国内外から膨大な投資資金が流入している。
これによりオフィスビルや1棟レジデンス、商業施設などの取引が活発になり、価格が大きく上昇した。その結果、マンションは実需には手が届かなくなってきている。
かつては、まとまった用地の主な売却先は、マンション用地が大きなウエイトを占めていたが、現在ではオフィスビル、賃貸マンション、ホテル、商業施設、物流施設などと競合し、価格競争になるとマンションは他の用途の不動産には勝てない。
―外国人の不動産購入をどう見るか。投機と言われることもあるが。
当社が対応している外国人顧客は「みなさん実需」。永住権を取得し、日本に住み、働き、家族と永住しようという人たちだ。「外国人だから買うな」とは決して言えない。住宅に求める実需のニーズは日本の人たちと同じだ。
問題は国内外からの投機資金だ。外国人による取引を実需と投機の区別もつけず、ひとまとめに規制をかけることは、海外からの労働力に頼っている現状では、日本にとっては大きな不利益になると思う。海外の人達がより良い生活と安定を求めて日本に来て、生活基盤を得るために住宅を必要としている。
中国本土では不動産市場が不安定化し、高値買いを続けるような投機行動は激減している。中国の大都市の不動産価格が崩れている。人口約3200万人の重慶市などの主要都市は、不動産が大幅に値崩れして、惨憺たる状態になっていると聞いている。習政権下で、高額の資金の持ち出しも厳しくなっているとも聞いている。
軍用地周辺の大規模な土地購入や、防衛庁市ヶ谷庁舎周辺などの土地の買い占めはある目的をもって購入されるので、厳しい規制をかけるのは当然のこと。海外からの多くの人達が永住権を取って、日本で子育てをして、2世、3世が巣立っていくのはグローバル化の自然の流れ。スポーツや芸術、科学や医学など、海外からの2世、3世が活躍している。排他的な風潮が強くなることは、人口がどんどん減少し、働く人達が少なくなっている日本の現状にとってはとても好ましいことだとは思えない。
投機マネーと円安が住宅市場をゆがめる
―円安や物価上昇が住宅価格に与える影響は。
過去、日銀の政策転換で長く続いていたデフレを抑制するために、ゼロ金利政策やマイナス金利政策、大規模な金融緩和政策などが打ち出され、黒田バズーカ砲が拍車をかけた。
物価上昇率2%を目指す「量的・質的金融緩和」を導入した2013年の普通国債残高743兆円は、25年度末には1129兆円超になると見込まれている。結果として、大量の資金が市場に放出され、円の価値は大きく下落した。円の流通が倍になれば、円の価値は半分になる。
具体的には7年前は110円、2011年頃には70円台の円が昨年末には157円まで安くなった。円の価値が下がれば不動産のような代替性のない資産の価値は上がり、不動産への投資意欲が刺激され取引が活発化になっていく。ゼロ金利政策は、これら不動産投資を下支えした。
資金調達コストが低下する中、国内の投資のみならず、ドルや元、ユーロから見た「日本の安い不動産」は、国際的な投資・投機の対象となった。
円安が輸入物価の上昇を招き、海外から見れば、日本は「安い賃金」「安い材料」「安い商品」などを有する国となり、輸出は大きく伸びたが、国内では円安の影響で物価が上昇し家計を圧迫している。不動産価格はどんどん上がり、物価の上昇が続き、生活は苦しくなっている。物価上昇で、実質賃金が下がり、膨大な投資資金が不動産市場を席巻し、一般の人には住宅の購入が高嶺の花になっている。
―短期転売や監視区域制度、規制強化の議論と課題。
短期転売がすべて悪いわけではない。業者が中古物件を買い取り、リノベーション工事の後、適正な利益を上乗せして、新築が高くて手が届かない実需の人達に販売することは健全な事業だ。短期転売に一律に規制をかければ、多くの事業会社の死活問題となる。換金を急いで安い価格で売却をする人達もいる。
問題は投機マネーが価格を押し上げていること。数億円のタワマンの再販に規制をかけることには理があると思う。
バブルの時に異常に値上がりを続けて、監視区域の設定や短期転売に高額な課税をかけることで規制を強化し、一気に地価が下がった。そして、その後にマンションブームが起きた。
三重野日銀総裁の政策転換で、大手の銀行、証券会社、不動産会社が破綻した。急ブレーキで市場が一気に冷えた。当時は全国津々浦々がバブルだったが、今は大都市の都心とその周辺に限定され、局所的なもの。円安の影響で物価が上昇し、実質賃金が落ち込み、取引価格が天井を超えて売り圧力が強くなっているところもある。日銀の政策転換で大きく流れが変わるとすれば、どのように規制をかけていくのか非常に難しい課題だと思う。
―現在の市場環境を「苛政の時代」と表現したが、その意味は。
孔子の言葉で「苛政は虎よりも猛し」とあるが、過酷な税や制度で苦しめられている村に住むよりも、虎が住んでいる村の方がまだ安心で、そちらには移らないということわざ。60年近くマンション事業に取り組んできたが「持てる人と持てない人の差」が、これほどの格差は過去に経験がない。
―状況を改善するための政策に何が必要か。
最も重要なこととして、1つは市場を実需本位に戻す政策が打ち出されることだと思う。バブル時には著しい価格上昇を抑えるために短期譲渡に重課税をかけたり、監視区域を設けて高値取引をけん制した。その後急ブレーキがかかり、バブルが崩壊し、銀行や証券会社など企業は倒産した。今はバブル時と違い経済や不動産はグローバル化していて経営のかじ取りは非常に難しく、過去のやり方の踏襲では傷の痛みが大きいと思う。
2つ目は税制の改正で、(東京以外)他の道府県の税収が増えること。その要因として、住民税や固定資産税などの東京の税収が全国の4割を占めているとも聞いているため。税制の改正で神奈川、千葉、埼玉など近隣の県でも税収が増えていくことが一極集中の是正に多少寄与していくのかもしれない。

