新年特集 事業環境、新たな領域に/住宅政策「次のバトン」をつなぐ/住宅改良開発公社 石塚孝新理事長インタビュー
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2026.01.05
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住宅改良開発公社が創立70周年を迎えた2025年、石塚孝氏が理事長に就任した。1985年に旧建設省へ入省。以降、住宅政策、都市計画、不動産市場整備、道路行政など、国のインフラ・不動産政策の中枢を担う部局で要職を歴任した。06年から大臣官房付で内閣府へ。都市再生や中心市街地活性化に関わり、地方自治体では長崎県副知事などを務めた。21年より不動産流通経営協会専務理事、現職に至る。戦後の住宅不足から高度成長、バブル崩壊、そしてストック型社会への転換まで、日本の住宅政策とともに歩んできた同公社。その節目に先頭に立つ石塚新理事長は、公社の役割をどのように再定義し、次の時代へバトンをつなぐのか。
■創立70周年に就任
「私が理事長に就任したのは12月1日だが、これは1955年12月1日に住宅改良開発公社が設立認可を受けた日と同じ日。今年は戦後80年という節目の年でもあり、そのタイミングでバトンを受け取ったことに、歴史の重みを強く感じている」理事長就任についてそう感想を述べた。
70年の間には住宅の量が足りなかった時代から、量が満たされ、質が問われ、今また、住まいのあり方が問い直されている。そのような変化の中で同公社は存続してきた。
■住宅政策の変遷と公社の役割
同公社の70年の歩みを10年単位で説明した。50年代から60年代前半は深刻な住宅不足の時代だった。個人の努力だけでは解決が難しく、既存住宅の修繕や改築が現実的な対応策だった。同公社は住宅改良の相談、技術的助言、資金あっせんを通じて、その受け皿となった。公社の名前はこの時代の取り組みに由来する。
60年代後半から70年代にかけては、高度成長と都市集中が進む。住宅供給の主体は事業者へと広がり、公社は事業者向けの総合コンサルタントとして、計画立案から資金調達、設計・監理までを支援した。活動範囲も東京から全国へと拡大した。80年代には分譲住宅事業を本格化させる一方、90年代のバブル崩壊を経て、デベロップメント主体の事業は縮小した。その中で軸足を移したのが、賃貸住宅融資の保証事業だ。自ら建てるよりも、マーケットをどう支えるか。供給の下支え役に回るという選択で、この転換が、現在の公社の基盤となっている。
■現在の主力事業と新たな仕組み
現在、公社の主力は賃貸住宅融資に対する保証事業である。22年に開始した「家族にあんしん保証」は、保証後の求償権の範囲を担保物件に限定したもの。担保物件価値を上回るローン残高がある場合でも、定期的に必要な修繕を行っている物件であれば、その差額分を同公社が負担する仕組みだ。
事業には挑戦したいが、リスクが重すぎるという声は多い。その声に応えることで安全に市中に住宅を供給する。さらに24年には、住宅金融支援機構と信託会社と提携して信託スキームを導入した。土地所有者が物件を信託し、信託内で事業と借入を完結させる仕組みだ。高齢の地主にとって、借金を背負う心理的負担を軽減し、相続も見据えた事業化を可能にする。「信託は日本ではまだ馴染みが薄いが、事業化のハードルを下げる有効な選択肢になり得る」と述べた。
アフォーダブル住宅という核心
「これは真剣にアプローチしなければならない」と強調したのが「アフォーダビリティ(入手のしやすさ)」の問題だ。「いまは、問題は住宅困窮層に限らない。中間層を含め、多くの人にとって住宅が手の届かない存在になりつつある」と述べる。新築マンション価格が1億円、2億円という水準に達する現実を前に、放置できない社会課題だとの認識を示し、「災害対策、環境性能、高齢化対応など、一つ一つは正しい取り組みでも、積み重なれば住宅価格を押し上げる。すべてを完璧にしようとすると、結果としてアフォーダブルでなくなる。そのバランスをどう取るかが問われている」と説明。
■ファミリー向け賃貸ストックの強化が不可欠
住宅価格が高騰し続ける現状で、「賃貸の重要性は今後ますます高まる」と語る。特にファミリー向け賃貸は供給不足が続き、持ち家との「質の段差」が指摘されてきた。
今後は老朽化ストックの建替えや、新規供給を含めて「良質なファミリー賃貸の選択肢を増やすことが不可欠で、土地所有者にとっては相続対策としての賃貸経営ニーズが根強く、公社が提供する信託スキームとの相性も良い」と語る。また、「10年国債金利が2%に迫る環境のなか、金利先高観は強まり、固定金利での投資判断がしやすくなるだろう。賃貸事業の投資タイミングとして一定の合理性があると見る。
金利動向はFOMC(米国の金融政策やフェデラルファンド金利という指標となる金利の誘導目標を決定する最高意思決定機関)など国際金融情勢に左右されるため、短期的には慎重な見極めも必要」と指摘する。
■イギリスの住宅政策に学ぶ点
今、注目しているのはリースホールド(期間付き利用権)とフリーホールド(永久使用権)の柔軟性だ。イギリスでは、リースホールドとフリーホールドを柔軟に組み合わせてアフォーダブル住宅であるシェアード・オーナーシップの供給が行われている。制度を先に固めるのではなく、現場では知恵をいかしながら融通無碍にやっている感じがあり、必要に応じて規制を整えていくというのがイギリス社会の姿勢のようだ。
アフォーダブル住宅の供給を支えるソフトな仕組みや環境基準、カーボンニュートラルなど、広範囲にわたって参考になる可能性のある姿勢であり、学ぶべき点もあると感じている。
■賃貸から街が変わるという視点
アフォーダブル住宅を考える上で、重視するのが賃貸の役割である。「持ち家か賃貸か、という二分法ではなく、住み替えや循環を前提とした市場をどうつくるか」が重要だと述べる。また、物件に地域の交流拠点としての機能を持たせ、コミュニティづくりにも一役買う住まいづくりにも取り組んでいる。その実験例が公社の複合型賃貸住宅「シュトラーレ本駒込」。この物件では、1・2階には学童クラブとクリニックが入居し、住まいと地域福祉・教育を一体化した構成とした。植栽を工夫し来訪者が滞在しやすい外構を設けるなどの仕掛けをほどこした。「コミュニティとの接点をどう形にするかはまだ模索の段階」としながらも、「住まいが提供するソーシャルバリューを数値化し、評価できる枠組みを整えることが重要と話す。個別物件の取り組みだけでは限界がある。社会的価値を見える化し、マーケット全体にそのような価値尺度ができないといけない」と述べた。社会価値を見える化する仕組みが、これからの住宅供給に求められているという認識を示した。
■DXと「カギは鍵」
DXについて話が及ぶと「最近よく言っているのが〝カギは鍵〟という話だ」と話した。
電子鍵の進化によって、入居者の入れ替わり時にも物理的な鍵交換が不要になり、管理が格段に柔軟になったが、関心はその先にある。
「鍵は単なる施錠装置ではなく、サービスをつなぐプラットフォームになり得る」入退室管理、見守り、防犯、エネルギー管理など、さまざまなサービスが鍵を起点に連動する可能性がある。文字通り「カギは鍵」なのだ。また、賃貸住宅入居者の日常の行動のデータ採取や分析などにも活用できるのではないか、と鍵が持つ可能性について期待をにじませた。
石塚氏はインタビュー中、理事長就任の抱負で「(受け取った)このバトンを次世代にどう繋いでいくかを考えるが、考えるだけではなく実践しなくてはいけない」と述べた。
■創立70周年に就任
「私が理事長に就任したのは12月1日だが、これは1955年12月1日に住宅改良開発公社が設立認可を受けた日と同じ日。今年は戦後80年という節目の年でもあり、そのタイミングでバトンを受け取ったことに、歴史の重みを強く感じている」理事長就任についてそう感想を述べた。
70年の間には住宅の量が足りなかった時代から、量が満たされ、質が問われ、今また、住まいのあり方が問い直されている。そのような変化の中で同公社は存続してきた。
■住宅政策の変遷と公社の役割
同公社の70年の歩みを10年単位で説明した。50年代から60年代前半は深刻な住宅不足の時代だった。個人の努力だけでは解決が難しく、既存住宅の修繕や改築が現実的な対応策だった。同公社は住宅改良の相談、技術的助言、資金あっせんを通じて、その受け皿となった。公社の名前はこの時代の取り組みに由来する。
60年代後半から70年代にかけては、高度成長と都市集中が進む。住宅供給の主体は事業者へと広がり、公社は事業者向けの総合コンサルタントとして、計画立案から資金調達、設計・監理までを支援した。活動範囲も東京から全国へと拡大した。80年代には分譲住宅事業を本格化させる一方、90年代のバブル崩壊を経て、デベロップメント主体の事業は縮小した。その中で軸足を移したのが、賃貸住宅融資の保証事業だ。自ら建てるよりも、マーケットをどう支えるか。供給の下支え役に回るという選択で、この転換が、現在の公社の基盤となっている。
■現在の主力事業と新たな仕組み
現在、公社の主力は賃貸住宅融資に対する保証事業である。22年に開始した「家族にあんしん保証」は、保証後の求償権の範囲を担保物件に限定したもの。担保物件価値を上回るローン残高がある場合でも、定期的に必要な修繕を行っている物件であれば、その差額分を同公社が負担する仕組みだ。
事業には挑戦したいが、リスクが重すぎるという声は多い。その声に応えることで安全に市中に住宅を供給する。さらに24年には、住宅金融支援機構と信託会社と提携して信託スキームを導入した。土地所有者が物件を信託し、信託内で事業と借入を完結させる仕組みだ。高齢の地主にとって、借金を背負う心理的負担を軽減し、相続も見据えた事業化を可能にする。「信託は日本ではまだ馴染みが薄いが、事業化のハードルを下げる有効な選択肢になり得る」と述べた。
アフォーダブル住宅という核心
「これは真剣にアプローチしなければならない」と強調したのが「アフォーダビリティ(入手のしやすさ)」の問題だ。「いまは、問題は住宅困窮層に限らない。中間層を含め、多くの人にとって住宅が手の届かない存在になりつつある」と述べる。新築マンション価格が1億円、2億円という水準に達する現実を前に、放置できない社会課題だとの認識を示し、「災害対策、環境性能、高齢化対応など、一つ一つは正しい取り組みでも、積み重なれば住宅価格を押し上げる。すべてを完璧にしようとすると、結果としてアフォーダブルでなくなる。そのバランスをどう取るかが問われている」と説明。
■ファミリー向け賃貸ストックの強化が不可欠
住宅価格が高騰し続ける現状で、「賃貸の重要性は今後ますます高まる」と語る。特にファミリー向け賃貸は供給不足が続き、持ち家との「質の段差」が指摘されてきた。
今後は老朽化ストックの建替えや、新規供給を含めて「良質なファミリー賃貸の選択肢を増やすことが不可欠で、土地所有者にとっては相続対策としての賃貸経営ニーズが根強く、公社が提供する信託スキームとの相性も良い」と語る。また、「10年国債金利が2%に迫る環境のなか、金利先高観は強まり、固定金利での投資判断がしやすくなるだろう。賃貸事業の投資タイミングとして一定の合理性があると見る。
金利動向はFOMC(米国の金融政策やフェデラルファンド金利という指標となる金利の誘導目標を決定する最高意思決定機関)など国際金融情勢に左右されるため、短期的には慎重な見極めも必要」と指摘する。
■イギリスの住宅政策に学ぶ点
今、注目しているのはリースホールド(期間付き利用権)とフリーホールド(永久使用権)の柔軟性だ。イギリスでは、リースホールドとフリーホールドを柔軟に組み合わせてアフォーダブル住宅であるシェアード・オーナーシップの供給が行われている。制度を先に固めるのではなく、現場では知恵をいかしながら融通無碍にやっている感じがあり、必要に応じて規制を整えていくというのがイギリス社会の姿勢のようだ。
アフォーダブル住宅の供給を支えるソフトな仕組みや環境基準、カーボンニュートラルなど、広範囲にわたって参考になる可能性のある姿勢であり、学ぶべき点もあると感じている。
■賃貸から街が変わるという視点
アフォーダブル住宅を考える上で、重視するのが賃貸の役割である。「持ち家か賃貸か、という二分法ではなく、住み替えや循環を前提とした市場をどうつくるか」が重要だと述べる。また、物件に地域の交流拠点としての機能を持たせ、コミュニティづくりにも一役買う住まいづくりにも取り組んでいる。その実験例が公社の複合型賃貸住宅「シュトラーレ本駒込」。この物件では、1・2階には学童クラブとクリニックが入居し、住まいと地域福祉・教育を一体化した構成とした。植栽を工夫し来訪者が滞在しやすい外構を設けるなどの仕掛けをほどこした。「コミュニティとの接点をどう形にするかはまだ模索の段階」としながらも、「住まいが提供するソーシャルバリューを数値化し、評価できる枠組みを整えることが重要と話す。個別物件の取り組みだけでは限界がある。社会的価値を見える化し、マーケット全体にそのような価値尺度ができないといけない」と述べた。社会価値を見える化する仕組みが、これからの住宅供給に求められているという認識を示した。
■DXと「カギは鍵」
DXについて話が及ぶと「最近よく言っているのが〝カギは鍵〟という話だ」と話した。
電子鍵の進化によって、入居者の入れ替わり時にも物理的な鍵交換が不要になり、管理が格段に柔軟になったが、関心はその先にある。
「鍵は単なる施錠装置ではなく、サービスをつなぐプラットフォームになり得る」入退室管理、見守り、防犯、エネルギー管理など、さまざまなサービスが鍵を起点に連動する可能性がある。文字通り「カギは鍵」なのだ。また、賃貸住宅入居者の日常の行動のデータ採取や分析などにも活用できるのではないか、と鍵が持つ可能性について期待をにじませた。
石塚氏はインタビュー中、理事長就任の抱負で「(受け取った)このバトンを次世代にどう繋いでいくかを考えるが、考えるだけではなく実践しなくてはいけない」と述べた。

