お電話でもお問い合わせを受け付けています 受付時間 平日 10:00~17:30

TEL03-6721-1338

2025年基準地価業界トップの見方、市況好調でも懸念材料

2025年基準地価業界トップの見方、市況好調でも懸念材料

  • 2025.09.29
  • お気に入り

全日埼玉県本部が大宮市内でセミナー・研修会を実施

 25年の都道府県地価調査は、全国の全用途平均・住宅地・商業地のいずれも4連続で上昇し、上昇幅が拡大。地域・用途によって差はあるが全体的に上昇基調が続いた。しかし、米国による関税措置問題、物価上昇、住宅ローン金利の上昇などさまざまな要因から、消費者マインドの低下が懸念されているため、地価動向には引き続き注視が必要とされている。不動産業界・関係団体トップの見方を探った。

人中心の国づくり
吉田淳一・不動産協会理事長
 全国の全用途平均・住宅地・商業地のいずれも4年連続で上昇し、上昇幅が拡大した。地域や用途によって差があるものの、三大都市圏では上昇幅が拡大し、地方圏でも上昇傾向が継続するなど、全体として上昇基調が続いた。わが国が少子化・人口減少をはじめとした構造的かつ深刻な課題にも直面する中、デフレに後戻りすることなく、当面のリスクに的確に対応しながら「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を実現するためには、政策を総動員し、わが国の競争力を一層強化するとともにウェルビーイングの向上などをはじめとした人中心の国づくりを進めていくことが必要である。今年は住宅ローン減税をはじめ、多くの重要な不動産関連税制が期限切れを迎えるが、わが国経済や国民生活に直結するこれらの延長などが不可欠だ。

税制特例措置延長を
 坂本久・全国宅地建物取引業協会連合会会長
 住宅地は堅調な住宅需要によって大都市圏で引き続き上昇幅が拡大するとともに、地方四市を除く地方圏が29年ぶりに下落から横ばいに転じるなど、地方圏でも上昇傾向が継続した。商業地は、主要都市でオフィスの収益向上や観光地でのインバウンド需要が地価上昇をけん引した。全宅連不動産総合研究所による最新の土地価格動向でも実感値でプラス12・5ポイントと前回調査より5・2ポイント上昇し、18期連続でプラスとなった。一方、日本経済の下振れリスクは散在し、特に住宅市場では住宅価格の高騰や住宅ローン金利の上昇が、消費者の住宅取得意欲への懸念として顕在化している。本会では26年度税制改正要望で、住宅ローン減税や本会が創設に尽力した低未利用地の活用管理にかかわる100万円特別控除等の各種特例措置の適用期限延長の実現に取り組んでいきたい。

諸課題に処方策
 中村裕昌・全日本不動産協会理事長
 全国の全用途平均、住宅地、商業地ともに4年連続で上昇し、上昇幅も拡大した。3月の地価公示、7月の路線価、8月の地価LOOKレポート(第2四半期)の流れから概ね予想通りの結果だった。少子高齢化・人口減少社会を迎えたわが国で、30年後、50年後、100年後という長期スパンで将来を見据えたとき、既存のものを取り壊し、より大きな新しい建物を建てるという手法は限界を迎えつつあるといわざるを得ない。さらに都心6区を中心とした東京23区の不動産価格の異常な高騰についても全く収束する気配が見えず、もはや実需層の手から完全に乖離している。持続可能な都市の再生、住宅・土地利用の最適化、多様性・包摂性の確保といった都市政策のあり方に関する諸課題について、わが協会としても知見を深めながら処方を見出していきたい。

内需のけん引約として
 遠藤靖・不動産流通経営協会理事長
 今年の地価調査は全国と三大都市圏の全用途平均の上昇が継続しているとともにいずれも上昇幅が拡大した。また、景気が緩やかに回復している中、地方四市以外のその他の地方圏の住宅地でも29年続いた下落から横ばいに転じた。東日本不動産流通機構によると、地域差はあるが首都圏マンションの成約件数・価格はともに前年比で10カ月連続の増加・上昇となっており、大いに注目したい。その上で、消費者の根強い住宅取得ニーズに影響を及ぼす今後の不動産価格や金利の動向に引き続き注視する必要がある。当協会としても米国通商政策などの影響による景気の下振れリスクに十分注意しつつ、内需のけん引役として、安全・安心な不動産取引ができる市場の実現とさらなる活性化に鋭意取り組んでいきたい。

重要性高まる再開発
 植田俊・三井不動産社長
 首都圏のオフィス空室率が低下し賃料は上昇傾向にある。継続する住宅マーケットの好調さや、活況なインバウンドなどから商業・ホテルの需要が堅調で、それらが地価上昇に反映された。また横浜関内エリアをはじめ、大規模再開発事業が進展するエリアの地価上昇が見られた。大規模再開発事業は日本の国際競争力の強化に寄与し経済成長をけん引する役割を果たす。わが国の未来を担うものとして、一層その必要性・重要性を高めている。地方圏でも半導体企業の進出地域や、物流施設需要が高まる地域で地価上昇が見られる。当社は熊本でサイエンスパークの検討を始めており、各地域の特色を生かした産業創造に取り組み、新しい時代の新しい形での地方創生に貢献していきたい。

緑地空間創出に評価
 中島篤・三菱地所社長
 国内外から人が集まる都市中心部や観光地での需要が底堅く、全体的な地価の上昇基調が継続している。一方で、関税問題や金融市場の変動が経済に与える影響については今後も注視していく必要がある。人的資本への投資意欲の高まりを背景に、高付加価値なオフィスの需要は多く、空室率の低下と賃料の上昇が続いている。例えば、大阪駅前に約4・5ヘクタールの都市公園を整備した「グラングリーン大阪」では、緑地空間の創出が価値の1つとして評価され、多くの入居希望をいただいた。商業施設やホテルの需要は引き続き好調。住宅の需要も堅調で、販売は好調だ。8月から販売を開始した「ザ・パークハウス武蔵小杉タワーズ」も実需層を中心に非常に多くの反響をもらっている。

ビル需給改善が顕著
 仁島浩順・住友不動産社長
 金利の上昇や米国の政策動向などによって経済の先行きに不確実性が残るものの、企業の設備投資への前向きな姿勢や雇用・所得環境の改善、物価や賃金の上昇を背景に国内景気は緩やかな回復基調が継続している。こうした中、商業地では、継続するインバウンド需要の増加によりホテルや商業店舗の需要も一段と拡大したほか、東京のオフィスビル市況は、優秀な人材確保に向けた働きやすいオフィス環境整備を目的とする移転や、人員増による増床などの前向きな移転が一層おう盛となり、空室率は低下傾向が継続。賃料上昇を伴う需給改善が顕著となっている。住宅地は、地価上昇に加え、建築費上昇により住宅価格は年々高騰しているが、都心・郊外共に底堅い実需に支えられ、新築・中古取引ともに引き続き堅調に推移している。

今後「環境」がテーマに
 星野浩明・東急不動産社長
 景気が緩やかな回復基調にあるなか、首都圏や大阪中心部などで住宅需要が引き続き堅調なほか、主要都市では店舗・ホテルの需要が堅調で、オフィス需要も空室率の低下や賃料の上昇傾向などで収益性が向上していることが地価上昇の背景にある。一方、金利上昇や世界経済の先行き不安定感、工事金や物価上昇による国内景気の減速の可能性などの不安定要素もあり、当面は国内の地価動向を注視していく。中長期的な不動産市場は、足元では国際経済情勢などのマクロ要因を注視する必要があるが、不動産市場は活況が継続すると見ている。国内外で環境への意識が高まるなか、今後の不動産市場では「環境」が大きなテーマになると見ている。

価格に見合う価値を
 松尾大作・野村不動産社長
 地価が4年連続で上昇し、上昇幅が拡大した一方で、資材費や労務費を含む建築費はまだ増加傾向にあり、各事業セクターは引き続き厳しい事業環境にある。住宅市場は、郊外の一部で売れ行きに鈍化傾向が見られるが、都心部・準都心部の売れ行きは順調で、トータルでは好調に推移している。住宅ローン金利は政策金利に連動して上昇する銀行が見られるものの、現時点では顧客の購入マインドへの影響は軽微であり、需要は引き続き堅調だ。土地取得が難しいことから、急激に供給量が増えることはないため、当面需給のバランスが大きく崩れることはないだろう。一方で分譲住宅の価格も上昇していることから、ハード・ソフト面で価格に見合った付加価値を提供していくことがさらに必要になってくる。

不動産市場は堅調推移
 小澤克人・東京建物社長 
全用途平均・住宅地・商業地が4年連続で上昇し、上昇幅が拡大した。この背景には、分譲マンションマーケットの堅調さや、好況なオフィス市況に加え、引き続き高いインバウンド需要、それに伴うホテル・商業施設などの需要の増加、都市部を中心とした再開発事業の進展で利便性やにぎわいの向上が期待されるエリアが増加したことなどがある。米国の関税政策の影響や金利の動向などは注視する必要があるものの、不動産投資市場は引き続き堅調に推移している。当社住宅では、東京都心部の「ブリリアタワー乃木坂」が販売前に問い合わせが5000件を超えたほか、JR長野駅近くの「ブリリア長野北石堂アルファレジデンシア」も長野県内在住者を中心に多数の問い合わせがある。

「赤坂」内定95%超に
 伊達美和子・森トラスト社長
 東京都心のオフィスビルは、引き続き空室率は低下傾向で、賃料は上昇基調にある。企業のオフィス回帰による規模の拡張ニーズや人材獲得のための立地改善の要望など、新築・既存ビルともに引き合いは多い。この10月に第2期竣工を迎える「東京ワールドゲート赤坂」でも、オフィス内定率は95%超だ。地方圏では、観光需要の高いエリアで店舗需要の高まりや各種開発事業の進展から、地価上昇トレンドが継続している。人気観光地への需要の偏在はあるが、地方でのインバウンド増加率は三大都市圏を上回っており、今後の伸びに期待ができる。当社グループが運営する「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」は、3~4割を外国人観光客が占めており、23年の開業以来、その割合は増加傾向にある。
TOP