暑中特集 構造転換と事業戦略/重点注力事業に「ストック」「フロー」「マネジメント」/跡地開発の可能性/総合デベトップ10目標に/自社ブランド構築へ体制整備/日本郵政不動産/池田 明社長に聞く
-
2026.08.05
- ツイート
日本郵政不動産(東京都千代田区)の池田明代表取締役社長は、2025年3月に三井ホーム社長を退任した後、日本郵政不動産の副社長へ就任。25年10月、社長に昇格した。三井不動産グループで長く不動産事業に携わり、三井ホームでは専務を1年、社長を6年務めた。日本郵政不動産社長の打診を受けたのは、三井ホームの社長在任中だった。不動産事業から7年離れていたことへの不安を「浦島太郎状態となっていた」と話す池田氏。「三井不動産時代の『経年優化』『残しながら、蘇らせながら、創っていく』という思想を大事に、地域社会から信頼される日本郵政グループの特徴を生かした独自性のある街づくりをしたい」と語る。就任から9カ月が経過した同氏に、同社の経営方針や事業目標、足元の不動産市況などを聞いた。
■三井ホームからの転身/街づくりへの原点
「公的な色彩の強い企業文化への戸惑いもあり、就任を引き受けるかどうか悩んだ」。「街づくりがしたくて不動産会社に就職したので、日本郵政グループほど大きな開発ポテンシャルを持つ企業は他に考えられなかった」と語る。
三井ホームの後任には長年経営の中枢を共にした野島秀敏氏を据え、引き継ぎのめどが立っていたことも決断を後押しした。また、日本郵政グループ新中期経営計画の策定時期と重なり、グループの不動産事業の歴史や強み・弱みを理解した上で将来像を自ら描ける状況だったことも追い風になったと話す。
■営業利益は倍増の500億円規模へ
07年の郵政民営化以降、同社はオフィスや商業施設、賃貸住宅を中心に賃貸不動産を開発・保有するストック型事業で成長してきた。不動産事業セグメントの資産は約1兆円、営業利益は239億円(25年度実績)に達している。
今年5月に公表した新中期経営計画では、ストック型事業に加えて分譲住宅事業・回転型事業等のフロー型事業、ファンド運用事業等のマネジメント型事業を重点注力分野として、総合デベロッパーとしてトップ10入りを目標に掲げている。
そして、郵便局や社宅の跡地という他社にはない開発余地を強みに、現行の約2倍に相当する営業利益500億円を目指す。
■分譲・ファンド事業を内製化/年度内に体制構築
これまで分譲住宅事業は他社デベロッパーとの共同事業が中心で、自社ブランドは持っていなかった。今後は自らブランドを立ち上げ、今年度中に品質管理・販売・管理・アフターサービスまでを担う事業インフラを構築し、複数物件を同時に事業化する体制を整える。
直近では野村不動産とのプラウド池下高見(JV)、JR九州とはMJR鹿児島中央駅前ザ・レジデンス(同)、阪神阪急不動産はジオ東洞院御池(JV)、積水ハウスとは共同事業3物件(いずれも大阪市上町台地エリア)を進めている。
ファンド事業も不動産投資顧問会社を設立する準備を進めていて、新中期経営計画中にファンド事業を立ち上げ、保有資産と預り資産による両輪経営を志向する。機関投資家の資金活用に加え、将来的にはセキュリティトークンやクラウドファンディングなどによる小口化の仕組みを通じた、個人向け投資商品の展開も視野に入れる。ゆうちょ銀行やかんぽ生命の顧客基盤と結びつける可能性についても触れた。
■一等地に眠る開発ポテンシャル
都心一等地に立地する集配郵便局は、窓口機能に対して郵便物の仕分け・集配機能が建物の大半を占めているのが実情だ。郵便物数の減少に伴い、この集配機能を郊外や周辺の拠点へ移転・集約することで、例えば銀座局や京橋局のような一等地をオフィス・住宅・商業等の用途に転用できる。従って、旧メルパルク東京、銀座郵便局、京橋分室など開発方針の固まった案件から順次着手する。
現在進ちょく中の大型案件には、白金一丁目西部中地区市街地再開発事業(分譲住宅・賃貸住宅、29年度竣工)や大阪桜島リゾートプロジェクト(IHG系3ブランド、800室強、28年度竣工)、日本橋一丁目東地区第一種市街地再開発事業(オフィス)がある。九段南、横浜駅東口、京都・福岡の中央郵便局でも開発が検討段階にあるという。そのほか、麻布台ヒルズの最高層棟「麻布台ヒルズ森JPタワー」は、日本郵便が持分の半分近くを保有している。
■賃貸一辺倒からの転換
長引くデフレから金利のある時代への移行は、付加価値が正当に評価される歓迎すべき変化だと同氏は語る。ただ、建築工事費の高騰で、賃料が上昇しても賃貸事業だけでは採算が合わない立地が増えている。記憶に新しいところでは、中断に至った中野駅北口再開発事業は同社も事業者の1社だった。当面は建築費負担力の高い分譲住宅やホテルへ軸足を移す方針を示している。
回転型事業では、ビルや商業施設を開発し外部へ売却してキャピタルゲインを得る手法と、投資家資金を用いて自らがファンド運用する手法を経済情勢や物件特性に応じて使い分ける。分譲住宅の立地は大都市圏が中心で、建築費の回収が難しい地方圏は当面対象から外す。
■リノベーション・コンバージョンのストック事業
建築費高騰は、国内では従来限定的だったリノベーション事業を積極化させる契機になり得る。京都駅前の旧メルパルク京都で進めるオフィス・店舗化はその一例となる。用途変更を伴うコンバージョンも含め、旧横浜市庁舎跡地がホテル「OMO7」に生まれ変わった事例のような可能性にも言及した。
耐震基準の補強を前提とし、断熱改修でZEH水準まで引き上げるにはコストがかかる。既存建物ではどこまで求めるかが課題になるとの認識を示した。
■〝経年優化〟の思想継承と次世代の街づくり
三井不動産グループで大切にしてきた「経年優化」「残しながら、蘇らせながら、創っていく」という思想は、日本郵政不動産でも引き継ぐ。オフィスでは共用会議室、ジム、フードコート、シェアオフィス等を組み込んだ付加価値の高い開発を進める。
住宅では再配達削減につながる宅配サービスに加え、定期借地権分譲、木造マンション事業等にも注力する。街づくりでは郵便局・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の窓口併設、JPタワーをはじめとする駅一体型開発、中央郵便局の歴史的価値の継承のような郵政グループならではの取り組みを重視していく。
グリーン戦略については、グループ全体で30年度に温室効果ガス排出量を19年度比46%削減する目標を掲げ、基幹となる大型賃貸物件7棟で実質再エネ調達化を完了させた。三井ホーム時代に手がけた木造建築の知見も生かしながら、地球環境への貢献と事業採算性を両立させる開発を目指す。
■インフレ時代の不動産市場
金利上昇についても、歴史的に見れば2%台半ばの水準は特段高いものではなく、物価や所得水準が追いついてくれば望ましい変化だと捉える。現状は物価上昇が所得の伸びを上回るが、いずれ賃金水準が上向く社会に移行していくとの見通しを説明した。
マンション価格の高騰で戸建て住宅の割安感が見直される動きにも触れ、価格と需要のバランスが崩れれば市場は修正を繰り返しながら正常化していくとの見方を示す。オフィス選びも、好調な企業業績を背景に人材獲得のための投資という側面が強まるとし、デフレ時代の「1円でも安く」という発想からの転換が進むと語った。
■三井ホームからの転身/街づくりへの原点
「公的な色彩の強い企業文化への戸惑いもあり、就任を引き受けるかどうか悩んだ」。「街づくりがしたくて不動産会社に就職したので、日本郵政グループほど大きな開発ポテンシャルを持つ企業は他に考えられなかった」と語る。
三井ホームの後任には長年経営の中枢を共にした野島秀敏氏を据え、引き継ぎのめどが立っていたことも決断を後押しした。また、日本郵政グループ新中期経営計画の策定時期と重なり、グループの不動産事業の歴史や強み・弱みを理解した上で将来像を自ら描ける状況だったことも追い風になったと話す。
■営業利益は倍増の500億円規模へ
07年の郵政民営化以降、同社はオフィスや商業施設、賃貸住宅を中心に賃貸不動産を開発・保有するストック型事業で成長してきた。不動産事業セグメントの資産は約1兆円、営業利益は239億円(25年度実績)に達している。
今年5月に公表した新中期経営計画では、ストック型事業に加えて分譲住宅事業・回転型事業等のフロー型事業、ファンド運用事業等のマネジメント型事業を重点注力分野として、総合デベロッパーとしてトップ10入りを目標に掲げている。
そして、郵便局や社宅の跡地という他社にはない開発余地を強みに、現行の約2倍に相当する営業利益500億円を目指す。
■分譲・ファンド事業を内製化/年度内に体制構築
これまで分譲住宅事業は他社デベロッパーとの共同事業が中心で、自社ブランドは持っていなかった。今後は自らブランドを立ち上げ、今年度中に品質管理・販売・管理・アフターサービスまでを担う事業インフラを構築し、複数物件を同時に事業化する体制を整える。
直近では野村不動産とのプラウド池下高見(JV)、JR九州とはMJR鹿児島中央駅前ザ・レジデンス(同)、阪神阪急不動産はジオ東洞院御池(JV)、積水ハウスとは共同事業3物件(いずれも大阪市上町台地エリア)を進めている。
ファンド事業も不動産投資顧問会社を設立する準備を進めていて、新中期経営計画中にファンド事業を立ち上げ、保有資産と預り資産による両輪経営を志向する。機関投資家の資金活用に加え、将来的にはセキュリティトークンやクラウドファンディングなどによる小口化の仕組みを通じた、個人向け投資商品の展開も視野に入れる。ゆうちょ銀行やかんぽ生命の顧客基盤と結びつける可能性についても触れた。
■一等地に眠る開発ポテンシャル
都心一等地に立地する集配郵便局は、窓口機能に対して郵便物の仕分け・集配機能が建物の大半を占めているのが実情だ。郵便物数の減少に伴い、この集配機能を郊外や周辺の拠点へ移転・集約することで、例えば銀座局や京橋局のような一等地をオフィス・住宅・商業等の用途に転用できる。従って、旧メルパルク東京、銀座郵便局、京橋分室など開発方針の固まった案件から順次着手する。
現在進ちょく中の大型案件には、白金一丁目西部中地区市街地再開発事業(分譲住宅・賃貸住宅、29年度竣工)や大阪桜島リゾートプロジェクト(IHG系3ブランド、800室強、28年度竣工)、日本橋一丁目東地区第一種市街地再開発事業(オフィス)がある。九段南、横浜駅東口、京都・福岡の中央郵便局でも開発が検討段階にあるという。そのほか、麻布台ヒルズの最高層棟「麻布台ヒルズ森JPタワー」は、日本郵便が持分の半分近くを保有している。
■賃貸一辺倒からの転換
長引くデフレから金利のある時代への移行は、付加価値が正当に評価される歓迎すべき変化だと同氏は語る。ただ、建築工事費の高騰で、賃料が上昇しても賃貸事業だけでは採算が合わない立地が増えている。記憶に新しいところでは、中断に至った中野駅北口再開発事業は同社も事業者の1社だった。当面は建築費負担力の高い分譲住宅やホテルへ軸足を移す方針を示している。
回転型事業では、ビルや商業施設を開発し外部へ売却してキャピタルゲインを得る手法と、投資家資金を用いて自らがファンド運用する手法を経済情勢や物件特性に応じて使い分ける。分譲住宅の立地は大都市圏が中心で、建築費の回収が難しい地方圏は当面対象から外す。
■リノベーション・コンバージョンのストック事業
建築費高騰は、国内では従来限定的だったリノベーション事業を積極化させる契機になり得る。京都駅前の旧メルパルク京都で進めるオフィス・店舗化はその一例となる。用途変更を伴うコンバージョンも含め、旧横浜市庁舎跡地がホテル「OMO7」に生まれ変わった事例のような可能性にも言及した。
耐震基準の補強を前提とし、断熱改修でZEH水準まで引き上げるにはコストがかかる。既存建物ではどこまで求めるかが課題になるとの認識を示した。
■〝経年優化〟の思想継承と次世代の街づくり
三井不動産グループで大切にしてきた「経年優化」「残しながら、蘇らせながら、創っていく」という思想は、日本郵政不動産でも引き継ぐ。オフィスでは共用会議室、ジム、フードコート、シェアオフィス等を組み込んだ付加価値の高い開発を進める。
住宅では再配達削減につながる宅配サービスに加え、定期借地権分譲、木造マンション事業等にも注力する。街づくりでは郵便局・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の窓口併設、JPタワーをはじめとする駅一体型開発、中央郵便局の歴史的価値の継承のような郵政グループならではの取り組みを重視していく。
グリーン戦略については、グループ全体で30年度に温室効果ガス排出量を19年度比46%削減する目標を掲げ、基幹となる大型賃貸物件7棟で実質再エネ調達化を完了させた。三井ホーム時代に手がけた木造建築の知見も生かしながら、地球環境への貢献と事業採算性を両立させる開発を目指す。
■インフレ時代の不動産市場
金利上昇についても、歴史的に見れば2%台半ばの水準は特段高いものではなく、物価や所得水準が追いついてくれば望ましい変化だと捉える。現状は物価上昇が所得の伸びを上回るが、いずれ賃金水準が上向く社会に移行していくとの見通しを説明した。
マンション価格の高騰で戸建て住宅の割安感が見直される動きにも触れ、価格と需要のバランスが崩れれば市場は修正を繰り返しながら正常化していくとの見方を示す。オフィス選びも、好調な企業業績を背景に人材獲得のための投資という側面が強まるとし、デフレ時代の「1円でも安く」という発想からの転換が進むと語った。

