
暑中特集 変動する市場と戦略/「着工難民」増加か/年間40万棟が計算必要/省エネ基準 適合義務化の影響
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2025.08.05
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2025年4月、改正建築物省エネ法の施行によって、原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準の適合が義務づけられた。これにより、省エネ計算や審査への対応力が業界内で急速に問われるようになっている。省エネ計算をはじめ、CASBEE環境認証やBELS、住宅性能評価など建築物に関する環境関連サービスをワンストップで提供する環境・省エネルギー計算センター(東京都豊島区)。尾熨斗啓介代表に、現場の実態と建築物の省エネ性能基準の今後の方向性などについて話を聞いた。
環境・省エネルギー計算センター尾熨斗啓介代表に聞く
尾熨斗氏によると、4月以降、新たに省エネ計算が必要になる建築物は従来の10倍以上に及ぶ。数にして、年間4万棟程度から40万棟程度に急増することになる。また、数が増えるだけでなく、一部の施工業者からは急激な法規制の強化に戸惑いの声も聞かれるという。
「中規模以上の住宅は3月以前も省エネ計算が必要で、届け出が義務づけられていた。一方、小規模の住宅と非住宅については3月まで説明義務しか課されておらず、施主の希望があった場合などを除き、省エネ計算はほとんどされていなかったのが実情。また、中規模以上の非住宅については17年、21年と段階を踏んで義務化の対象が引き上げられたが、小規模建築物は今年の4月に適合が義務づけになった。急激な変化に追いつけず、確認申請を出す時点で戸惑う小規模建築物の施工業者も一定数出てくるものと推測される」
改正法施行前の2月・3月に駆け込み需要が見られたこともあって、4月は反動的に施工業者などからの問い合わせは減ったというが、5月以降の同社への問い合わせ件数は例年の1・3~1・5倍程度に増えているという。
「省エネ計算が必要な約40万棟のうち、半数の20万棟程度は自社で省エネ計算が可能だろうと言われている。残りの半数については、当社のような機関に計算を委託するのが主な対処法になってくるだろうが、業界3番手の当社の対応件数は年間1000棟程度。仮に受け皿を2倍に広げたところで1%程度の需要しか満たせない。同業他社および民間の検査機関も非常に混み合っていることが予測される。これまでかかっていた期間にプラス1カ月、中には3カ月見てほしいとアナウンスしている会社も見られる。このような状況では、スムーズに確認申請できない『着工難民』がかなりの程度出てしまうのではないだろうか」
着工難民になることを避けるには「発注予約」が効果的だという。
「現在は計算会社の取り合いのようになってしまっているため、前倒しで相談するのが良いだろう。事前にスケジュールなどがわかっているのであれば、いつまでに図面をつくって提出し、いつまでに納品すればいいのかを伝えてもらうことで、我々も技術者を抑えやすくなる」
すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務づけられることが決まったのは、昨日今日の話ではない。国土交通省や業界団体は、こうした状況を予測することはできなかったのだろうか。
「3年ほど前から改正が決まっていたため、国土交通省などは全国行脚してセミナーを実施したり、充実した内容のテキストを配布したりしていた。ただやはり、短時間のセミナーに参加してテキストを読み込めば省エネ計算ができるようになるわけではない。当社の技術者でいえば、1カ月程度の研修期間を経てようやく計算できるようになり始める。特にこれまで省エネ計算に馴染みがなかった小規模建築物の施工業者については、改正の詳細自体も知り得ていない可能性がある。いかにこうした人たちに届けるかというのが今後の課題ではないだろうか。情報感度が低い事業者ほどスケジュール調整なども甘く、図面の整合性がとれていないようなケースが多いように思う」
既存住宅の性能向上が急務
建築費の高騰や人口減少、空き家の増加などを背景に、新築建築物の着工数は減少傾向にある。4月から省エネ基準適合が義務づけられたのは新築住宅だが、政府は50年にストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指していることもあって、既存住宅の省エネ性能向上が急務といえる。
「30年頃には、法規制で既存住宅の省エネ基準適合が義務づけられることもあるかもしれない。現在も住宅・非住宅ともに省エネ改修に対する補助金は手厚く、快適性の向上や光熱費削減、減税などのメリットも大きいことから、一定程度、省エネ改修も進んでいるように見受けられる。非住宅でいえば、ESGや社会的責任などの観点からも大手を中心に省エネ化が促進されている」
4月から新築建築物のみならず、増築部分にも省エネ基準適合が求められ、小規模住宅の主要構造部のうち、一種以上の過半を超える大規模な改修に建築確認申請を要するようになったこともあって、新築施工業者のみならず、リフォーム業者の負担も増している。現在は、建築物の省エネ化を推進したいという理想や希望に現場が追いついていない状況と言わざるを得ないが、既存住宅を含む建築物の省エネ性能向上は今後本当に進んでいくのだろうか。
「24年4月には、建築物の省エネ性能表示制度がスタートした。これは不動産ポータルサイトなどの広告物に、建築物の省エネ性能を表示するもの。国土交通省が推進していることもあって、表示やこれを基にした提案が進んでいると聞いている。省エネ性能を表示するには省エネ計算が不可欠。消費者にもわかりやすい光熱費の目安も記載される。情報時代になったことで、省エネ性能についてしっかり勉強している消費者も増えている印象がある。こうした取り組みが推進されることで、省エネ性能や省エネ改修の重要性の認知が進み、省エネ性能というものが徐々に物件選びや投資判断の指標の一つになっていくのではないだろうか」
環境・省エネルギー計算センター尾熨斗啓介代表に聞く
尾熨斗氏によると、4月以降、新たに省エネ計算が必要になる建築物は従来の10倍以上に及ぶ。数にして、年間4万棟程度から40万棟程度に急増することになる。また、数が増えるだけでなく、一部の施工業者からは急激な法規制の強化に戸惑いの声も聞かれるという。
「中規模以上の住宅は3月以前も省エネ計算が必要で、届け出が義務づけられていた。一方、小規模の住宅と非住宅については3月まで説明義務しか課されておらず、施主の希望があった場合などを除き、省エネ計算はほとんどされていなかったのが実情。また、中規模以上の非住宅については17年、21年と段階を踏んで義務化の対象が引き上げられたが、小規模建築物は今年の4月に適合が義務づけになった。急激な変化に追いつけず、確認申請を出す時点で戸惑う小規模建築物の施工業者も一定数出てくるものと推測される」
改正法施行前の2月・3月に駆け込み需要が見られたこともあって、4月は反動的に施工業者などからの問い合わせは減ったというが、5月以降の同社への問い合わせ件数は例年の1・3~1・5倍程度に増えているという。
「省エネ計算が必要な約40万棟のうち、半数の20万棟程度は自社で省エネ計算が可能だろうと言われている。残りの半数については、当社のような機関に計算を委託するのが主な対処法になってくるだろうが、業界3番手の当社の対応件数は年間1000棟程度。仮に受け皿を2倍に広げたところで1%程度の需要しか満たせない。同業他社および民間の検査機関も非常に混み合っていることが予測される。これまでかかっていた期間にプラス1カ月、中には3カ月見てほしいとアナウンスしている会社も見られる。このような状況では、スムーズに確認申請できない『着工難民』がかなりの程度出てしまうのではないだろうか」
着工難民になることを避けるには「発注予約」が効果的だという。
「現在は計算会社の取り合いのようになってしまっているため、前倒しで相談するのが良いだろう。事前にスケジュールなどがわかっているのであれば、いつまでに図面をつくって提出し、いつまでに納品すればいいのかを伝えてもらうことで、我々も技術者を抑えやすくなる」
すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務づけられることが決まったのは、昨日今日の話ではない。国土交通省や業界団体は、こうした状況を予測することはできなかったのだろうか。
「3年ほど前から改正が決まっていたため、国土交通省などは全国行脚してセミナーを実施したり、充実した内容のテキストを配布したりしていた。ただやはり、短時間のセミナーに参加してテキストを読み込めば省エネ計算ができるようになるわけではない。当社の技術者でいえば、1カ月程度の研修期間を経てようやく計算できるようになり始める。特にこれまで省エネ計算に馴染みがなかった小規模建築物の施工業者については、改正の詳細自体も知り得ていない可能性がある。いかにこうした人たちに届けるかというのが今後の課題ではないだろうか。情報感度が低い事業者ほどスケジュール調整なども甘く、図面の整合性がとれていないようなケースが多いように思う」
既存住宅の性能向上が急務
建築費の高騰や人口減少、空き家の増加などを背景に、新築建築物の着工数は減少傾向にある。4月から省エネ基準適合が義務づけられたのは新築住宅だが、政府は50年にストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指していることもあって、既存住宅の省エネ性能向上が急務といえる。
「30年頃には、法規制で既存住宅の省エネ基準適合が義務づけられることもあるかもしれない。現在も住宅・非住宅ともに省エネ改修に対する補助金は手厚く、快適性の向上や光熱費削減、減税などのメリットも大きいことから、一定程度、省エネ改修も進んでいるように見受けられる。非住宅でいえば、ESGや社会的責任などの観点からも大手を中心に省エネ化が促進されている」
4月から新築建築物のみならず、増築部分にも省エネ基準適合が求められ、小規模住宅の主要構造部のうち、一種以上の過半を超える大規模な改修に建築確認申請を要するようになったこともあって、新築施工業者のみならず、リフォーム業者の負担も増している。現在は、建築物の省エネ化を推進したいという理想や希望に現場が追いついていない状況と言わざるを得ないが、既存住宅を含む建築物の省エネ性能向上は今後本当に進んでいくのだろうか。
「24年4月には、建築物の省エネ性能表示制度がスタートした。これは不動産ポータルサイトなどの広告物に、建築物の省エネ性能を表示するもの。国土交通省が推進していることもあって、表示やこれを基にした提案が進んでいると聞いている。省エネ性能を表示するには省エネ計算が不可欠。消費者にもわかりやすい光熱費の目安も記載される。情報時代になったことで、省エネ性能についてしっかり勉強している消費者も増えている印象がある。こうした取り組みが推進されることで、省エネ性能や省エネ改修の重要性の認知が進み、省エネ性能というものが徐々に物件選びや投資判断の指標の一つになっていくのではないだろうか」