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金融庁/企業価値担保権を創設/5月に「事業性融資推進法」施行

金融庁/企業価値担保権を創設/5月に「事業性融資推進法」施行

  • 2026.02.02
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日本の融資判定の現状と今後の方向性 (金融庁資料)

 金融庁は、金融機関による事業性融資への取り組みを促す施策のひとつとして企業価値担保権「事業性融資の推進等に関する法律」を創設。2024年6月に成立し26年5月25日に施行となる。企業価値担保権は、その企業の技術力や成長性など固有の企業価値を担保に金融機関が融資を行えるようにする制度をいう。不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性に基づく融資を促す点が特徴だ。担保権設定者となる債務者を委託者とし、企業価値担保権信託会社を受託者とする。
事業将来性で融資促す
 回収原資となる担保目的財産は会社の総財産で、設定は登記が効力発生要件となるため、商業登記簿への登記が必要となる。企業価値担保権者である受託者は、制度概要の説明義務を負うほか、事業者は将来性に基づく融資判断の前提として事業計画などを超える財産処分を事業譲渡などで行う場合、企業価値担保権者と事前のコミュニケーションを取り同意を得ることが必要とされる。
 上限となる極度額の設定は任意で、事業成長に応じた資金需要の増加にも対応できる利点がある。極度額は、借り手側の請求で設定し、事業継続に支障をきたすような他の担保権の実行などに関しては、異議が認められることとなっている。主な活用事例としては、不動産などの保有担保のないスタートアップ企業のアーリーステージによる赤字資金への対応を目的とした融資を挙げている。
 また、事業の継続成長に必要な設備投資への対応を急務とする地域中小・中堅企業への融資、事業再生や事業承継時の資金需要に応じた融資、負債再構築を目的とした融資も想定している。M&Aやプロジェクト・ファイナンスなど、既存全資産担保設定実務の負担軽減、コスト削減、ローンの譲渡性向上も見込むとしている。
 株式担保で十分との声もあるが、株式は借り手財産でなく株主の財産であり、株式が把握する価値は企業価値とはイコールでない。従って、株式担保は企業価値担保権とは異なり、代替できるものではないとされる。事業者が複数の貸し手から借りたい場合も、企業価値担保権はニーズに応じて対応できる。ただし、基本は単一の金融機関団を想定していて、新たな資金調達や経営改善支援の調整に時間を要するリスクがある。調整自体が困難となる可能性もあるため、留意が必要だ。
 貸し手への対応に時間を取られ、経営判断の遅れや営業などに割けるリソースが限定される懸念もある。金融機関にとっては、事業の将来性に基づく新たな融資機会の増加、信頼による預金やその他取り引き機会への拡充可能性といったメリットがある。

新たな融資評価の考え方
 金融庁は2025年7月、企業価値担保権付き融資に関する評価・引き当て方法の基本的考え方を公表した。企業価値担保権は、従来の不動産担保とは性質が大きく異なるため、金融機関から「一般担保として扱えるのか」「無担保融資と何が違うのか」といった疑問が寄せられていた。今回の公表は、こうした実務上の混乱を整理し、金融機関が評価ルールを構築する際の指針を示すものだ。
■不動産担保とは根本的に異なる「企業価値」
 金融庁はまず、企業価値担保権を一般担保として扱うことは困難だと明確に示した。企業価値は将来の事業見通しなど主観的要素に依存し、事業停止時には価値を見込みにくい。客観的な処分可能性を前提とする不動産担保とは本質的に異なる半面、企業の総財産の中に一般担保の要件を満たす不動産が含まれる場合、その部分は従来どおり一般担保として評価できる。

■無担保融資とは異なる「緊密な関係性」が核
 一方で、企業価値担保権付き融資は無担保融資と同一視すべきではないとしている。企業価値担保権は、借り手の総財産に担保設定を行うことで、借り手と貸し手の間に特別に緊密な関係を構築する制度をいう。
 貸し手には、借り手の経営実態を継続的に把握し、適切な支援を行うことが期待される。将来の経営困難リスクを低減できるほか、他の債権者による担保実行を停止させる権限、事業譲渡手続きの開始権限なども付与することができる。こうした制度設計によって、借り手・貸し手双方が将来見通しにコミットしやすくなり、債務者区分や格付けでて将来・定性情報を反映しやすくなる点が特徴だ。
 
■米国実務と日本の従来方式を踏まえた評価例
 金融庁は、評価方法の具体例として米国実務と日本の従来方式の双方を提示している。まず、米国では「債務者区分」は債権格付けという段階を踏まず、融資の回収可能性を直接評価する。将来キャッシュフロー予測など、将来・定性情報を最初から明示的に反映する点が特徴だ。
 次に、日本の従来方式をベースにする場合、企業価値担保権付き融資では債務者区分の判定段階で将来・定性情報を適切に反映することが求められる。たとえば、財務情報だけでは要注意先・破綻懸念先となる企業でも、緊密な関係の中で事業の将来性が見込める場合、正常先・要注意先と判定することがあり得る。

■想定事例/成長局面で事業成長担保権の活用
 具体的には、Fintech系SaaSベンチャーが成長局面で直面する資金調達課題に対し、事業成長担保権の活用が選択肢の1つになる。対象企業は現在、ベンチャーキャピタル(VC)から5億円の出資を受ける小規模企業で、足元は赤字ながら月次経常収益(MRR)は数千万円規模で増加基調。解約率も低位で、個人顧客を中心に順調に基盤を拡大している。信頼性の高いVCの支援を受けている点も特徴だ。
 同社は今後1~2年で年商30億円、将来的には個人顧客基盤を軸に法人顧客も取り込み、年商100億円規模への成長を見込む。そのためにはエンジニア採用や広告投資など、大規模な資金投入が不可欠となる。
 また、追加の資金調達では持分の希薄化を避けたい意向が強く、借り入れの活用が求められるが、赤字が続く現状では通常の融資はハードルが高い。
 こうした局面で、事業成長担保権は有効に機能する。(1)赤字でも将来性を基に必要額の借り入れが可能、(2)株式の希薄化を抑制できる、(3)経営者保証に依存せず再挑戦の機会を確保できる--といった効果が期待される。
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